映画「僕が愛したすべての君へ」「君を愛したひとりの僕へ」は、10月7日から丸の内TOEIほか、全国公開(c)2022「僕愛」「君愛」製作委員会
映画「僕が愛したすべての君へ」「君を愛したひとりの僕へ」は、10月7日から丸の内TOEIほか、全国公開(c)2022「僕愛」「君愛」製作委員会

「栞と暦は、幼い頃に同じ悲しみや痛みを経験したからこそ惹かれ合ったのかなと。和音は、暦がいなくても一人でたくましく生きられる人。暦とは、お互いにないものを持っているからこそ、いいパートナーになれるのかなと。今回、和音さんを演じてみて、生命力をすごく感じたんですよね。恵まれた環境で育って、人に与えられるものもたくさんあって。人としての強さのあるキャラクターだったので、演じながら、体の内側に太い幹があるみたいな感覚がありました。自立して生きている人ってこんなに芯が強いんだなっていうのを、疑似体験するようでした」

 人に出会って刺激を受け、アドバイスをもらうことのほかにも、演じた役柄から学ぶことも多い。

■役はいつも自分より偉い

「“役はいつも自分より偉い”という言葉が好きです。海外の女優さんがおっしゃっていたんですが、本当にそのとおりだと思います。役に対してリスペクトを持って演じることはもちろん、物語の登場人物のほとんどが、目の前にある壁にちゃんと向かっていって、戦って、その壁をぶち破って進んでいく力を持った人たちですよね。自分の場合はもともと小心者で、なかなか勇気を出せなかった時期が続いていました。でも今は、勇気を振り絞ること、道を切り拓く力のようなものを、私自身が役から受け取ってきたように感じています。和音を演じる上では、作為的に声を作ろうとはしませんでした。和音の心を体に入れて、最初に出てきた天然の声が、いちばん嘘のないエネルギーがこもっている気がして……」

 俳優として意識しているのは、可動域の広さ。ブレない軸さえ持っていれば、肉付きをどうするかは、いろんな可能性があると思う。

「役の可能性を潰したくはないので、あまり考えすぎずに、まずはやってみることを大事にしています。私……、こんなこと言ったらあきれられそうですけど、準備が苦手なんです(笑)。セリフ覚えが異常に速くて……あの、写真で覚えるんですよ。2~3回声に出して音として覚えて、一晩寝れば、あとはカメラロールに保存される。子供の頃は、てっきりこの機能を人はみんな持っているものだと思っていました。『私はズルしてたんだな』って思いました(笑)。でも、それがあったから本当に助かってるというか。一人の心が体の中に入ってるだけでパンパンなのに、そこに他者の心を入れるとなると、『もう満員です』って、だいぶエネルギーを消耗してしまう。どんな仕事でも、楽しいだけではできないとは思うけれど、それだけしんどい思いをしてやったからこそ、現場で自然に湧き上がる感情と出会えたときが楽しいし、演じる醍醐味だと思っています」

(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2022年10月7日号より抜粋

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