元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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東京五輪をめぐる汚職事件を、個人的に結構な関心を持って眺めている。
と言っても、スポーツの祭典の裏でそんな汚い取引が行われていたなんて! などと憤っているわけではなく。そもそもイマドキ五輪がクリーンと信じている人っているのかね? 悲しいけれど「やっぱりね」と思うのみである。
関心を持っているのはソコではなく、この事件の構図そのものだ。五輪の公式スポンサーになりたい企業が、組織委の実力者だった理事側に何千万とか億という賄賂を贈っていたんじゃないかと疑われているわけですが、そもそも五輪の公式スポンサーになることがそこまでしなきゃいけないほど大事なことだったのかと驚いたのだ。
例えば五輪の公式スポンサー企業だからと、その会社の作ったエンブレム付きスーツを買いたいと思う人がそんなにいるのだろうか? 少なくとも私はそれを理由にものを買う発想は全くないなあ。もう全然そんな時代じゃないと思うんだけどそうでもなかったのかな? それとも大企業の中枢の人達の発想が50年くらい更新されていなかったのかな?
賄賂を受け取ったとされる電通OBの容疑者にも興味津々だ。電通という大企業に長年勤め、厳しい競争の中で実力を遺憾なく発揮してきた人だからこそ組織委の理事にもなったのだろう。で、いま78歳とのことですから、もう十分すぎるほどお金も名誉も得てきたに違いない。でもそれではまだ足りなかったのだろうか。賄賂の認識があったかどうかはともかく、もらったお金でいったい何が買いたかったのかな。あるいは何を買ったのかな。で、買った結果幸せになったのかな。とても知りたいところである。
何れにしても、何だかとっても「旧式」な感じの事件だと思う。時代を切り開くようなスリルも興奮もなく、何となく「惰性」でお金が動いたんだろうなーという感じ。大きな不正が行われていたということよりも何よりも、そのことに空恐ろしい思いを抱いている。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2022年9月26日号