これほど世界で愛された人はいないだろう。英国のエリザベス女王(96)が9月8日、亡くなった。強い責任感と笑顔で国をまとめ、窮地に陥った王室を何度も救った。皇室とも縁が深く、多くの日本人にも慕われた。要を失った王室は、どこに進むのか。
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ロンドン中心部にあるバッキンガム宮殿には、女王の死を悼む人たちが続々と駆けつけ、涙ながらに英国歌「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」を歌い上げた。その3カ月前、在位70年を記念する「プラチナ・ジュビリー」でバルコニーに立ち、手を振った女王の姿は、もう、見られないのだ。
死去の2日前、女王は静養先のスコットランド・バルモラル城で、保守党党首選に勝利したトラス氏と会い、首相に任命したばかりだった。女王は常に「(王権は)権利ではなく義務。眼を閉じるまで公務を全うする」と語り、まさに生涯現役を体現した。
国民から敬愛を集める女王だが、王室はトラブル続きだった。最近だけでも孫のハリー王子とメーガン妃が王室を離脱し、次男アンドルー王子の性的暴行疑惑が持ち上がった。そんな一家をたった一人でまとめてきたのが、女王だった。
とりわけ、ダイアナ元妃の事故死で地に落ちた信頼をここまで回復させられたのは、持ち前の芯の強さと、虚弱ながらも国王としての務めを遂げた父への憧憬(しょうけい)だろう。
女王は1926年にヨーク公(後のジョージ6世)夫妻の長女として生まれた。父は国王ジョージ5世の次男。36年に伯父のエドワード8世が玉座を継いだが、米国人との「王冠をかけた恋」で王位を捨て、1年足らずで父に譲った。その時、女王はわずか10歳。突然、過酷な運命を定められた。
第2次世界大戦中、父王はチャーチル首相と連携して国民の士気を高めた。戦後は植民地が続々と独立し、大英帝国としての地位が下がっていった。苦しい時代でも君主としての役目を果たし、56歳の若さで亡くなった父の姿を、女王は決して忘れなかった。