斎藤幸平(さいとう・こうへい)/1987年、東京都生まれ。専門は経済思想、社会思想。著書に『人新世の「資本論」』など
斎藤幸平(さいとう・こうへい)/1987年、東京都生まれ。専門は経済思想、社会思想。著書に『人新世の「資本論」』など
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 賃金は増えず、物価は上がり、格差が広がっている。「縮むニッポン」で暮らす私たちは今後、何を目指していけばよいのか。東京大学大学院准教授・斎藤幸平さんに、そのヒントとなる処方箋を聞いた。AERA 2022年9月19日号の記事を紹介する。

【写真】ホームレスの人々に配る食料を準備する支援団体のメンバー

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 いま、生活は苦しいのに円安や戦争で物価はどんどん高騰し、エネルギーも逼迫(ひっぱく)しています。そうした中、「縮む日本」を日常においても実感するようになってきているのではないでしょうか。

 インフレで苦しむのは低所得層です。昨年の「家計の金融行動に関する世論調査」によれば年収300万円未満の単身世帯の貯蓄の中央値は30代が15万円、40代はわずか2万円です。これでは結婚はできず、できたとしても共働きで生活はカツカツ。子どもも産めません。今年は出生数80万人割れという予測もあり、想定より速いペースで少子化が進んでいます。

 根底にあるのは低賃金です。

 この10年間の日本企業の売上高と利益の推移を見ると、売上高は横ばいなのに利益は5倍になっています。市場規模が変わっていないにもかかわらず利益が出たということは、過度なコストダウンを行ったからです。その代表は人件費です。非正規や外国人労働者からの搾取が増加しているのです。

 つまり、企業の利益が上がり、配当が増えたのは、設備投資やイノベーションの成果ではなく、「効率化」という名目で賃金カットを行った結果。短期的には企業の利益は増え、富裕層が増加したが、長期的には国力を根幹から奪うでしょう。

 岸田内閣は経済成長と再生可能エネルギーによる脱炭素を両立させる「グリーン成長戦略」を打ち出しました。しかし、大量の化石燃料に依存してきた資本主義を急速に脱炭素化しながら経済成長するのは、現実にはかなり難しい。先の過剰なコストカットのせいで、技術開発も日本は遅れています。そうした中、原発を新設しようという動きもありますが、地元は受け入れないでしょう。

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