一方、脱炭素化が遅れれば気候危機は深刻化し、日本も熱波や豪雨などの異常気象の被害を受けます。4年前の西日本豪雨では、損害額が1兆円以上と言われています。今後はそのリスクが飛躍的に増大していく。
■成長できないなら
要するに、格差拡大、少子化や気候危機による経済的損失で、日本は加速的に縮んでいくのです。それに対する経済成長策は「聖域なき構造改革」や「異次元の量的緩和」という形で試みられてきましたが、うまくいっていません。
成長できないなら、プランBが必要です。そのために私が提唱しているのが、私たち自身の浪費的なライフスタイルを変えていく「脱成長」です。絶えざる広告によって欲望を駆り立て、過当競争で低価格の商品をあふれさせる今の資本主義は、低賃金・長時間労働を蔓延させ、膨大な資源とエネルギーを無駄にしてきました。
必要なのは、私たち自身が過剰な社会から自発的に距離を取り、経済成長を前提としない社会に変えていくこと。それが、「脱成長」です。
コロナ禍の経験を踏まえ、私は週休3日制と日曜日の店舗休業を提唱しています。欧州では、もともと日曜日に店は開いていませんが、さらに週休3日にしても生産性は下がらないという社会実験の結果が出ています。生産性が変わらない以上、賃金カットも必要ありません。生活に余暇が生まれます。テレワークも使って、余計な通勤時間、飲み会、出張を減らしていくことで、家事や子育てに男性も積極的に参与するべきです。余計なエネルギーが使われなくなって、環境負荷も減るでしょう。
もちろん併せて、格差を是正し、未来の世代のために投資する必要があります。そのためには、富裕層や大企業への課税や炭素税を財源とした、若者向けの給付型奨学金や住宅保障、再エネ投資を進めていくべきです。こうして人々が経済成長による豊かさだけではなく、自然やコミュニティーの豊かさを感じられる社会への転換がこれからの時代に必要な「撤退戦」なのです。
(構成/編集部・野村昌二)
※AERA 2022年9月19日号