被害者とそうでない人の間で、こんなにも認識の違いがある背景には性被害に関する無知や勘違いもある。これらが作り出したイメージが被害者を苦しめる。

 例えば「性被害者は笑わない」といった、いわゆる「レイプ神話」がある。イメージ像と被害者の姿が異なるとき、「本当に被害があったの?」などと批判する人もいる。

■さらなる加害を助長

 また、男性にとって、性被害が身近ではないことも背景にある。内閣府が2021年に公表した調査では、女性の14人に1人(6.9%)、男性の100人に1人(1.0%)が、無理やり性交などをされた経験を持つ。単純計算で被害者数は数百万人にも及ぶ。だが、同じ調査で、「被害がある」と答えた人の中で、警察に相談したのはたった5%あまり。被害者の声が社会に出にくい状況がある。これらを踏まえて、加藤教授はこう話す。

「性被害に関するあらゆることが加害者に都合よく、被害者を攻撃するように使われがちなリスクを負っている」

 根本的な解決のためにはどうしたらいいのか。

「性行為には同意が必須だ、という性教育が不可欠です。もちろん、被害者非難をやめることも重要です。被害者への二次的加害であると同時に、性被害者が告発しにくい環境をつくり出し、さらなる加害を助長することにもなるからです」(加藤教授)

 ジャーナリストの伊藤詩織さんが性被害を訴えた裁判を担当した佃克彦弁護士は、性暴力にはある特徴があると指摘する。

「性暴力には被害者非難が多いですが、他の暴行事案の場合には被害者非難はほとんどありません。性暴力の場合は、(自分の身を守らなかった)女性のほうがけしからん、と周囲が責め立てる構造にあるのだと思います」

 性被害者を追い詰める構図は、法律にも如実に表れている。

「現在の刑法の強制性交罪に関して言えば、反抗を制圧するに足りる暴行・脅迫が存在しない限り強制性交罪は成立しません。ですが、同意がなければ、性的な自由の侵害にあたるはずです。法律の価値判断が、男性の目線になっています」(佃弁護士)

 刑法が成立したのは100年以上前の明治時代だ。私たちの社会も古い価値観を引きずっていないだろうか。(編集部・井上有紀子)

AERA 2022年9月19日号より抜粋

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