では、ヤングケアラーは、誰をケアしているのか。
小中高生で最も多いのは「きょうだい」だ。大学生では「母親」が最も多くなっている。「きょうだい」のケアは、少し年の離れた妹や弟の世話をする場合が多い。しかし、これを「面倒見のよい姉や兄」「ちょっとしたお手伝い」などと捉えるのは、認識違いだ。
厚労省の「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」によると、半数近い中高生が「ほぼ毎日」世話をしており、ケアに費やす時間は平均約4時間だ。登校前や帰宅後に毎日、4時間以上のケアが加わっているとすれば、ヤングケアラーの自由な時間はほとんどなくなってしまう。
澁谷さんは、ケアが学校生活にもたらしていく影響をこう話す。
「たとえばケアや家事の負担が重い場合には、自分の時間がとれなくなったり、勉強時間や睡眠時間が減ったりします。宿題が期限内に提出できなくなったり、友だちと遊べなくなったりすることが続くと、周囲と話題が合わなくなったり、学校を休みがちになるなど、状況が深刻化していくケースも珍しくありません」
■誰にも悩みを話せず孤立を深める
こうした状況を受けて、厚労省や各自治体によるヤングケアラー支援の動きも広がりつつある。だが、支援につなげるための最初の大きな壁が、そもそも「誰がヤングケアラーなのかを把握できていない」ことだ。
冒頭の発言は、NHK福祉情報サイト「ハートネット」※のヤングケアラーの集まりに参加した高校2年生の言葉だ。彼女のように「友だちに話したことがない」ヤングケアラーは少なくない。
大人であれば、同じような介護の悩みを持つ人を見つけるのはそれほど難しいことではない。誰かに話すことで負担が減るわけではないが、「みんな同じように悩んでいる」と思えれば、心理的に大きな支えとなる。
だが、ほとんどのヤングケアラーにとって、同世代との話題はテレビやネット、ファッションや部活などが中心。思春期の子どもにとって、家族のケアは学校で話しづらい内容だろう。そうして、誰にも悩みを話せずに、孤立していってしまうのだ。(ライター・奥田高大)
※【VR当事者会】ヤングケアラー(前編) 学校・友だち、日頃の“もやもや”について思うこと
※AERA 2022年9月19日号より抜粋