東京でかつ丼を食べるときは、もっぱら、日暮里駅近くのお蕎麦屋さんです。海外に出張したときなど、帰国すると無性にかつ丼が食べたくなり、成田空港から日暮里に直行します。まずは生ビールを1杯。蕎麦焼酎のロックか蕎麦湯割りを2~3杯。おつまみは生きのよい刺し身に空豆か枝豆、そして卵焼きが定番です。白子ぽん酢、鱧(はも)の蒲鉾などが加わることも。そして最後をとろろ蕎麦で締めればいいところを「かつ丼!」となってしまうのです。かつ丼は豚肉と油脂のかたまりですから、食養生の立場からは悪食です。でもいいのです。かつ丼を前にしたときの心のときめきは、食材の不利を補います。そしてお店のお姐さんに「先生は蕎麦屋に来て蕎麦を食べないんだから」と叱られることになります。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2022年9月16日号