──慶應の側はいかがでしょうか。

伊藤:今は入試改革以上に、大学も大学院も含めて原点に立ち戻り、どんな役目を担ってどのような学生を育てていきたいか、長期的なビジョンや目標を作りたいと思っています。

 特にヨーロッパにおいて、国立大学は数百年単位で独立を保ちながら社会の発展を支えてきた歴史があります。先日、オランダのライデン大学を訪れました。まもなく創立から450年を迎える、同国最古の大学です。市民の方々は、大学という存在がいかに国や世界の発展を支えてきたのかを認識していました。私たちも同じように、現役学生たちの孫やひ孫の代まで含めて「この大学で学んで良かった」と思ってもらえるようなグランドデザインを構想したい。

 具体的に力を入れたいと思っていることの一つが国際化です。以前、学生から「国際化は早稲田のほうが進んでいる」と言われてショックを受けたことがありました。既に、経済学部、総合政策学部と環境情報学部は英語だけで卒業できるプログラムがあります。大学院でも慶應と海外の協定校の両方で学び、修了時に二つの学位が取得できるダブルディグリープログラムを用意している。ただ、まだ認知としては弱いのかなと。印象としても実感としても、国際化が進んだ大学であると学生が感じられるプログラムを増やしたいと思っています。

■進む反知性主義 大学を防波堤に

──新型コロナウイルスの感染拡大を経て、これからの時代に、大学に求められる役割をどうお考えですか。

伊藤:少し話はそれますが、慶應の教員の中でも、ウクライナ危機を機に、メディアに出演するようになった方が多くいます。専門性をもって長年蓄積してきた知見が、思わぬタイミングで社会の役に立つことがある。ポストコロナでこうすべきという短期的な視点もありますが、できるだけ長期的なビジョンを持ちたいというのが基本的な姿勢です。

田中:表現は違いますが、伊藤先生と私の考えは近いと思います。コロナ禍はネガティブな経験でしたが、人類には未知の問題があると肌で知ることができた。学問を基礎にした対処を学ぶ機会になったと思っています。

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