伊藤:一方で、データに基づく議論を否定する「反知性主義」と呼ばれる動きが進んでいることは危惧しています。例えばYouTube世代は、動画の最初の3秒とか10秒を見ておもしろいかどうかを決めてしまう。データを根拠にした話より、先入観に基づいた信条が重視され、物事の結論が導かれることも増えています。
一番良くないのは無視や無関心といった態度です。今は、例えば理系の人が何か言おうとしても文系の人が「わからない」と耳を塞いでしまう部分がある。これが進んでいくと、好き嫌いを基準に物事の役割が決まる大変な世の中になってしまう。
田中:そういった意味ではアメリカも危険な臭いがしています。トランプ前大統領の出現以降、反知性主義を前面に押し出し、アメリカは「インテリ」対「インテリを拒否する人々」に二分された。数秒で相手を判断するような風潮がエスカレートすると、暴力による闘争すら肯定する社会になりかねません。大学の役割は、人々が教養と知性を育み、正確な判断ができるようになる助けになること。そこに立ち返る時期が来たと思います。
伊藤:大学側が一致団結して、学問の役割を伝えていく必要があります。早慶はもちろん、あらゆる教育機関の方と手を取り合いながら、しっかりとした学問を積むことが良い人生、良い社会につながるというメッセージを伝えていきたいと強く感じます。
(構成 本誌・松岡瑛理)
※週刊朝日 2022年9月9日号