伊藤:キャンパスも変わりましたよね。われわれが大学生だった頃、早稲田は立て看板が乱立していました。

 今は講義棟の建て替えが進み、近代的できれいなキャンパスになっています。かつての早稲田を好む方もおられるとは思いますが、相当な変貌です。

──田中総長は6月の総長選で再選を果たしました。今後の大学のビジョンをどうお考えですか。

田中:2040年には日本、50年にはアジアで「最も学ぶ価値のある大学」と思われることを目指します。以前、新聞のインタビューでこの話をしたところ「東大・京大を抜く」と書かれたのですが、偏差値やノーベル賞の数で東大や京大に勝つというつもりではありません。意識しているのは卒業後の社会貢献です。官僚や企業のトップになる以外にも、社会に貢献する職業はいろいろとあります。例えばNPO法人のリーダーや中学・高校の教員、地方の新聞記者など、あらゆる分野で活躍する人材を多く輩出できる学びを提供する。そのための学修効果を上げていくことに尽力したいです。

■政経学部の入試 数学が必須科目

──早稲田では昨年の入試から政治経済学部の入試科目で数学が必須化され、話題になりました。

田中:政治経済学部の入試改革については、学部内でも長い間、議論を積み重ねてきました。2004年に国際政治経済学科を設置した時に、ゲーム理論と統計学入門の授業を必修にしたんです。

 その頃から、私学文系向けの3教科(国語・英語・社会)の勉強では政治経済学部の授業についてこられない、一般入試に数学を取り入れるべきという話が持ち上がっていた。そこから10年以上を経て今回の入試改革に至ったわけです。数学への苦手意識からか受験者数は減りましたが、その分、入学者の学力も上がって、結果としては良かったと思っています。

 日本では高校生の時から「文系」「理系」とクラス分けがなされますが、OECD諸国の中でこんなに明確に分けている国はおそらくほかにない。それが日本のデジタル化の遅れにもつながっていると思っています。例えば慶應は私が高校生の頃から経済学部の入試で英語・国語・社会のほかに数学が必須で、すごく先端的でした。そういう意味でも、早慶は日本の私学のなかでも文理のインターフェース(相互理解)を率先して担えるのではないかと思っています。

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