「未婚の母で周囲に家族もいない。シッターに預けて海外に仕事に行こうとすると、子どもが泣いて追いすがるんです。息子にこんな思いをさせてまでやるべき仕事なのか?9時から5時の仕事にするべきか?と悩みました。でもやっぱり自分には映画しかなかった。それをやめたら自分の存在価値がなくなってしまうと」

 その背中を見て育った息子もいま、プロデューサーとして活躍中だ。そして実はプロデューサーは女性に向いている職業だと吉崎さんはいう。

「女性の人生を凝縮している仕事だと感じるから。脚本家や監督と愛を交わして妊娠し、1年近く準備をして、ベビー(映画)が誕生する。でも完成して終わりではなく、そこから長い子育てがある。子ども(映画)が成功し、親孝行であれば親に仕送りをしてくれる。世界一タフな仕事でもあり、夢を追う仕事でもある」

 いまも映画製作の現場に立つ。映画業界を目指す若者にアドバイスする機会も増えた。

「まずは日本のぬるま湯世界から外に出ないといけない。そして本当にやりたいことならば、私のように親に借金してでも即、行動すべきです。わがままじゃないと、アーティストにはなれませんよ」

 その笑顔は映画界のゴッドマザーのごとく輝いていた。(フリーランス記者・中村千晶)

『嵐を呼ぶ女』
(2750円〈税込み〉/キネマ旬報社)
落ちこぼれの女子高生が一念発起して海を渡り、男性社会である国際映画界で生き抜いてきた闘いの記録。大ヒット映画「ニュー・シネマ・パラダイス」の買い付け秘話、プロデュース作「ハワーズ・エンド」「クライング・ゲーム」(ともに1992年)で米アカデミー賞を獲得した経緯など、映画界を目指す後進への導きの書でもある
『嵐を呼ぶ女』 (2750円〈税込み〉/キネマ旬報社) 落ちこぼれの女子高生が一念発起して海を渡り、男性社会である国際映画界で生き抜いてきた闘いの記録。大ヒット映画「ニュー・シネマ・パラダイス」の買い付け秘話、プロデュース作「ハワーズ・エンド」「クライング・ゲーム」(ともに1992年)で米アカデミー賞を獲得した経緯など、映画界を目指す後進への導きの書でもある


AERA 2022年9月5日号