「未婚の母で周囲に家族もいない。シッターに預けて海外に仕事に行こうとすると、子どもが泣いて追いすがるんです。息子にこんな思いをさせてまでやるべき仕事なのか?9時から5時の仕事にするべきか?と悩みました。でもやっぱり自分には映画しかなかった。それをやめたら自分の存在価値がなくなってしまうと」
その背中を見て育った息子もいま、プロデューサーとして活躍中だ。そして実はプロデューサーは女性に向いている職業だと吉崎さんはいう。
「女性の人生を凝縮している仕事だと感じるから。脚本家や監督と愛を交わして妊娠し、1年近く準備をして、ベビー(映画)が誕生する。でも完成して終わりではなく、そこから長い子育てがある。子ども(映画)が成功し、親孝行であれば親に仕送りをしてくれる。世界一タフな仕事でもあり、夢を追う仕事でもある」
いまも映画製作の現場に立つ。映画業界を目指す若者にアドバイスする機会も増えた。
「まずは日本のぬるま湯世界から外に出ないといけない。そして本当にやりたいことならば、私のように親に借金してでも即、行動すべきです。わがままじゃないと、アーティストにはなれませんよ」
その笑顔は映画界のゴッドマザーのごとく輝いていた。(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2022年9月5日号