安倍晋三元首相銃撃事件を受け、政治家と旧統一教会の関係が問われる中、「宗教2世」の存在が注目されている。旧統一教会の信者の家庭で育った20代女性が明かす苦悩とは──。AERA 2022年9月5日号の記事を紹介する。
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関東で暮らす20代後半の女性は16歳のとき、東京・歌舞伎町のクラブで寝泊まりをしていた時期がある。裏方として掃除や皿洗いをして、明け方の閉店後にソファで眠った。高校に進学はしていたものの、通ってはいなかった。
「体を触られたり、強引にお酒を飲まされたりしたこともあるけれど、家にいるより全然よかった。外の世界の人たちは悪魔じゃなかった。むしろ温かい世界だと思った」
当時をそう振り返る。
女性の両親は旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の信者で、教会のマッチングによって結婚した。父は現在も教団の関連会社で働いている。自宅の一室は「祈祷(きとう)室」になっていて、祭壇やつぼ、教祖の写真などが並べられ、毎日、朝と夕方に「ごあいさつ」をすることが幼い頃からの日課だったという。
「生活が困窮するほどではなかったけれど、肌感覚として裕福ではないと思っていた」
なんの迷いもなく、日曜日になると教会に通っていたが、疑問を持ったのは中学2年生のとき。幼い頃から純潔を説いていた父親が、自室でアダルトビデオを見ている姿を目撃したのだ。
「世間的には、そんなの大したことではないのでしょう。でも、私を絶対に教義に従わせようと教育していた父の裏切りを許すことはできなかった。旧統一教会では、家庭において父は『神』。その教えにも疑問を持った」
学校の友人には相談できず不登校になり、家出を繰り返すようになった。このままだと祝福結婚をさせられてしまう、と気づいたときには本気で死ぬことを考えたという。
「私が生きることができたのは、アルバイト先で一般人の夫に出会い、結婚と出産をすることができたから。運がよかった。一歩間違えれば、今頃どうなっていたかわからない」(女性)
(編集部・古田真梨子)
※AERA 2022年9月5日号より抜粋