静岡県の共立蒲原総合病院に勤務し、そろそろ地元で開業しようと思っていた矢先に、教授から電話です。東京都のがんセンターを目指している都立駒込病院に食道がんの専門家として行ってくれというのです。内心、困ったなと思いましたが「まあ、いいや」と受けることにしました。
ところがこの都立駒込病院で7年間、がんと真剣に向き合ったことが、その後の私の人生を決めました。何とかがんを克服したいという情熱と闘志を持つようになり、そのためには西洋医学だけではダメだと思いました。そこで中西医結合の病院を設立したのです。
振り返ってみると、大きな道は自分で選んだのではなく、向こうからやってきました。それを私は「まあ、いいや」と受け入れただけなのです。確かに「これは自分に向いていない」と踏みとどまったこともありましたが、多くは「まあ、いいや」です。そうやって選んだ自分の境遇で最大限にやってきました。
歳をとると、「まあ、いいや」と思わなければいけないことが増えるのではないでしょうか。でも「まあ、いいや」の先には、面白い未来が開けているというのが、私の確信なのです。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2022年9月2日号