コールセンターで不明瞭な回答を繰り返されるケースがあるのも確か。電話の向こうで対応するスタッフのスキルにも個人差があるわけだ。それはコールセンターに限った話ではないが、相手の顔が見えない会話では癇に障りやすくなる。
どのような経緯にせよ、カスハラにより従業員はダメージを受ける。怒りや不満、不安などを感じ、仕事への意欲が減退する人が多数を占める。
カスハラが頻発する背景も考察する必要がある。SNSにおける言葉の暴力では「匿名性」が過激な攻撃を助長していると指摘されるが、カスハラにも関係するかもしれない。
先ほど「友人には優しいが、サービス業には厳しい」という女性の事例を紹介したが、彼女の行動が象徴的だろう。身近な人には気遣いを欠かさないが、面識のない人(自分との関係性が希薄な人)には情け容赦がない。それは、相手に自分の素性などが知られていない=匿名性が高いことにも起因しているのではないか。しかし、それを受ける従業員は心身を蝕まれる。理不尽に負けない、強い心を持ちたいが、個人の努力だけではいかんともしがたい。
(ジャーナリスト・大西洋平、編集部・中島晶子)
※AERA 2022年8月29日号より抜粋