林:なるほどね。
鴻巣:作者のマーガレット・ミッチェルが差別主義者なわけじゃなくて、意識の低い登場人物が頭に血が上って言ってるところがあるので、そういうところは直せないじゃないですか。現代との意識のギャップで悩みますね。
林:『私はスカーレット』を書いたら、こんな世界的ベストセラーに文句つけるわけじゃないですけど、矛盾がいっぱいあるんですよね。鴻巣さんも『謎とき「風と共に去りぬ」』(18年)を書かれていて、おもしろく拝読しましたけど、南北戦争のあと、スカーレットがアシュレのことを、こんな頼りない男なんだ、と思ってガッカリしてるかと思うと、「アシュレなくてはいられない」みたいなことを言って、よくわかんない(笑)。
鴻巣:スカーレットって、ビジネスパーソンとしてはすごく成長して、一家の長としての責任感もけっこうあるんだけど、こと恋愛になるとすごいオンチじゃないですか。なぜアシュリがこんなに好きなのかもよくわからないし、あの恋愛オンチぶりがこの物語を動かしているんですよね。彼女がトンチンカンなことばっかりするから、物語が転がっていくわけです。
林:そうなんですよ。レット・バトラー(スカーレットの夫)は性的にもすごく魅力的だったと思うのに、それについては書かれてなくて、妊娠する夜だけは激しく燃えたみたいな感じで。
鴻巣:スカーレットの性的な成熟度というのも不思議で、3回結婚してるのに成熟した感じがまったくないですよね。メラニーとアシュリは結婚して一緒に住んでるわけだし、それに対する嫉妬とか苦しみとかありそうなものなんだけど、アシュリがクリスマスに一度戦場から帰ってきて、みんなで楽しく過ごして、そのあと二人が寝室に消えていくまで、二人の夫婦の営みなんてまったく思いつかないんですよね。「寝室のドアが閉まった」という記述の後に、スカーレットが「えっ、なぜ?」みたいな(笑)。
林:そこがほんとに不思議。私、少女のころはレット・バトラーが理想の人だったけど、大人になったら「アシュレタイプもいいかな」なんて思っちゃった。