「歴史は繰り返さないが時に韻を踏む」という言葉があります。歴史は完全には繰り返さないが、過去と現在の類似点から未来を予測することは可能だという意味です。筆者は1930年代の日本と2020年代の中国の類似点に注目しています。
1945年以降の民主主義と自由経済による国際化の時代は終わりつつあり、今は30年代のようなナショナリズムとポピュリズムの時代に回帰しつつあります。そこで政策決定者が判断ミスを繰り返せば、誤った「新常態」が生じます。その時、自己矯正力の乏しい権威主義的体制ほど、大きな判断ミスを組織的に行う恐れが大きいのです。
日本は第1次世界大戦による貿易急増で債権国となり、街は成り金であふれバブルになりました。国力が増大し、豊かになった人々の一部は傲慢(ごうまん)になりました。良い時代は続かず、関東大震災で「慢性不況」が悪化。29年の世界大恐慌と31年の満州事変で国際連盟を脱退し、日本の国際的孤立は一層深まりました。
当時の日本と現在の中国の類似点と相違点は、正確に理解すべきです。
日本にとっての第1次大戦は、中国にとって2001年の「テロとの闘い」ではないでしょうか。高度成長で豊かになる一方で、都市と農村の格差は拡大しました。また、南シナ海の領有権問題を巡り、中国の主張を退けた16年の常設仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の判断は、日本にとってのリットン報告書ではないか。最近の中ロ連携強化は1940年の日独伊三国同盟と同様、中身の薄い戦術的なものです。
30年代、日本は対米関係で戦略的判断ミスを犯しました。正しかったのは対米強硬派でなく、対米協調派でした。
こう考えると、今の中国が台湾政策や対米外交の面で、深刻な戦略的判断ミスを犯す恐れを考えておく必要があります。台湾有事の最大の危険は、ここにあると考えます。
※週刊朝日 2022年9月2日号