意外に軽やかなところもある
意外に軽やかなところもある

■朝帰りが増えたケンジを尾行

 ケンジがボスになってしばらくして、土肥さんはケンジの朝帰りが増えたことに気が付いた。

「怪しすぎる……」

 土肥さんはケンジの尾行を決意。ケンジは浜を出ると、離れた場所にある町まで行き、一軒の家に入っていった。ケンジの別宅だった。家の軒先に寝床まで作ってもらい、そこでは「ブッチャー」という名前でかわいがられていた。

地域の人が建ててくれた「ケンジ御殿」。総重量160キロの立派な家だ
地域の人が建ててくれた「ケンジ御殿」。総重量160キロの立派な家だ

「実はケンジはあちこちの家でかわいがられていて、それぞれの家でご飯をもらっては、夜はブッチャー邸で寝るという生活をしていたんです。だから名前も『おっさん』『ガンタ』『番長』『ドラちゃん』など、9個もあって」

■3匹の父になり“イクメン”発揮

 その風貌と愛嬌(あいきょう)で、町の人たちも虜(とりこ)にしていたのだ。そして、女の子にモテなかったケンジだが、ついにゆきちゃんというメスと結ばれ、3匹の子猫のお父さんになった。通常オス猫は育児をしないものだが、ケンジはかいがいしく子猫の面倒を見たという。

別宅「ブッチャー邸」で昼寝をする。ここまでリラックスできるのもボス猫だからか
別宅「ブッチャー邸」で昼寝をする。ここまでリラックスできるのもボス猫だからか

 3匹のうちの1匹の女の子を、土肥さんが引き取った。名前は「きっこちゃん」。土肥さんの家で、ケンジのようにいつも笑いを振りまいてくれる。

■冬は暖かい家でふとんまで

 ケンジの現在は、というと……。夏場はパトロールに浜へと繰り出すが、寒い冬になると、ブッチャー邸から一歩も外へ出ず、暖かい家でふとんまでかけてもらい、惰眠をむさぼるという生活。人と暮らすための高い適応能力をみせるのも、ボス猫たるゆえんなのかもしれない……。

ブッチャー邸でふとんをかけてもらって寝るケンジ。SNSでこの写真に12・6万いいねがついた
ブッチャー邸でふとんをかけてもらって寝るケンジ。SNSでこの写真に12・6万いいねがついた

「ケンジは強いから優しいんです」と土肥さんはかみしめるように言う。ある日、「今日が撮影最後の日で、一回帰らないといけないんだよ」と声をかけると、ケンジはたんぽぽの咲く野原まで案内してくれた。

ケンジが連れていってくれたタンポポの咲く野原で。つぶらな瞳がかわいい
ケンジが連れていってくれたタンポポの咲く野原で。つぶらな瞳がかわいい

「こんな場所があるなんて、私も知らなかったんです。猫なんだけど、猫じゃないみたい」

■ケンジは、みんなを笑顔にしてくれる

 土肥さんが撮るケンジの写真は、人を笑顔にさせる力がある。それは土肥さん自身が、ケンジといるとたくさんの幸せが舞い込んできたから。ケンジのおかげで世界が広がり、いろんな人と知り合うことができた。ケンジは、みんなを笑顔にしてくれる。

(編集部・大川恵実)

『みんなケンジを好きになる』は河出書房新社から出版。いろんなケンジはインスタ@big_face_cat_kenjiでも見ることができる/河出書房新社提供
『みんなケンジを好きになる』は河出書房新社から出版。いろんなケンジはインスタ@big_face_cat_kenjiでも見ることができる/河出書房新社提供

※AERAオリジナル限定記事