「まずラストの大きなオチを考え、過程をどうドラマチックに見せられるかを逆算していきました。7、8割を固めたうえで書き始めています」
しっかり固めている分、時系列を一カ所でも変えると、パズルを一からはめ直すような作業が要される。
「流れを変えると、効いていたはずの伏線が効かなくなることもある。細心の注意を払い、血へどをはくような思いをしながら書いていました」
それでもミステリーを書くことの醍醐味(だいごみ)は「童心に帰り、いたずらを考えているような心持ちで罠(わな)を仕掛けられること」と結城さんは言う。
「一番筆がのるのは、やはり伏線を張っている瞬間です。『こう書いたら読者は驚いてくれるかな』。そんな“悪だくみ”をしている瞬間が一番楽しく、伏線を回収している段階が一番寂しい」
初めて物語を書いたのは、中学3年生の時。高見広春さんの小説『バトル・ロワイアル』のパロディー版として、当時在籍していたサッカー部の仲間たちが高校進学をかけ、殺し合いを繰り広げる物語を書いた。その量、原稿用紙600枚分。部活の仲間、その保護者たちが読後の興奮をストレートに伝えてくれたことが何より嬉しかった。
いまは、作家と会社員、二足の草鞋を履く。
取材では、質問に瞬時に反応し、同時に朗らかな笑い声がよく響いた。型破りな作家の今後が楽しみでならない。(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2022年8月15日号