『#真相をお話しします』(1705円〈税込み〉/新潮社)42歳の妻子持ちがマッチングアプリにハマる理由が想像の斜め上をいく「ヤリモク」、リモート飲み会に仕込まれた鮮やかなまでの復讐劇を描いた「三角奸計」……。収められた全5編は、どれも伏線が回収された先に少しの恐怖感と爽快感が待っている。「伏線につながる細かな描写をいくつも用意してあるので、結末を知ったうえでも、2回、3回と読み返して楽しんでほしい」(結城さん)(photo 写真映像部・戸嶋日菜乃)
『#真相をお話しします』(1705円〈税込み〉/新潮社)42歳の妻子持ちがマッチングアプリにハマる理由が想像の斜め上をいく「ヤリモク」、リモート飲み会に仕込まれた鮮やかなまでの復讐劇を描いた「三角奸計」……。収められた全5編は、どれも伏線が回収された先に少しの恐怖感と爽快感が待っている。「伏線につながる細かな描写をいくつも用意してあるので、結末を知ったうえでも、2回、3回と読み返して楽しんでほしい」(結城さん)(photo 写真映像部・戸嶋日菜乃)

「まずラストの大きなオチを考え、過程をどうドラマチックに見せられるかを逆算していきました。7、8割を固めたうえで書き始めています」

 しっかり固めている分、時系列を一カ所でも変えると、パズルを一からはめ直すような作業が要される。

「流れを変えると、効いていたはずの伏線が効かなくなることもある。細心の注意を払い、血へどをはくような思いをしながら書いていました」

 それでもミステリーを書くことの醍醐味(だいごみ)は「童心に帰り、いたずらを考えているような心持ちで罠(わな)を仕掛けられること」と結城さんは言う。

「一番筆がのるのは、やはり伏線を張っている瞬間です。『こう書いたら読者は驚いてくれるかな』。そんな“悪だくみ”をしている瞬間が一番楽しく、伏線を回収している段階が一番寂しい」

 初めて物語を書いたのは、中学3年生の時。高見広春さんの小説『バトル・ロワイアル』のパロディー版として、当時在籍していたサッカー部の仲間たちが高校進学をかけ、殺し合いを繰り広げる物語を書いた。その量、原稿用紙600枚分。部活の仲間、その保護者たちが読後の興奮をストレートに伝えてくれたことが何より嬉しかった。

 いまは、作家と会社員、二足の草鞋を履く。

 取材では、質問に瞬時に反応し、同時に朗らかな笑い声がよく響いた。型破りな作家の今後が楽しみでならない。(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2022年8月15日号