AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
【写真】結城真一郎さんの著書『#真相をお話しします』はこちら
『#真相をお話しします』は、結城真一郎さんの著書。42歳の妻子持ちがマッチングアプリにハマる理由が想像の斜め上をいく「ヤリモク」、リモート飲み会に仕込まれた鮮やかなまでの復讐劇を描いた「三角奸計(さんかくかんけい)」……。収められた全5編は、どれも伏線が回収された先に少しの恐怖感と爽快感が待っている。「伏線につながる細かな描写をいくつも用意してあるので、結末を知ったうえでも、2回、3回と読み返して楽しんでほしい」と話す結城さん。同書にかける思いを聞いた。
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文章から目をそらさせない。物語に留まらせる。リズム感あふれる文体とスピード感のある展開からは、そんな執念すら感じる。結城真一郎さん(31)のミステリー短編集『#真相をお話しします』は、主に若い世代の読者を意識して書かれた。テーマも、マッチングアプリ、精子提供、リモート飲み会と現代ならでは。結城さんは言う。
「同世代の人から『本なんて小学校以来、読んでいない』と聞くと、純粋に『もったいないな』と思うんです。一度も手をのばすことなく、動画配信などほかの娯楽に時間を奪われているのだとしたら、本に触れてほしい、その一冊目になれたら嬉しい、という思いは常に持っていました」
1編目にあたる「惨者面談(さんしゃめんだん)」は、中学受験を控えた家庭を主人公が初めて訪れるところから始まる。母と子の間の不穏な空気を感じながら物語の世界に入り込み、違和感の正体をつかめぬまま、気づけば不意打ちを食らっている。読み手は次第に、正面切って不意打ちを食らいにいくことに快感を覚える。そんな中毒性のある作品が並ぶ。
短編に登場する主人公たちはみな、市井にあふれているような人々だ。「どちらかというと、日の当たる場所に生きてきた人々が、一つ角を曲がった瞬間に、闇に落ちるといった物語が多い」と分析する。暗闇に落ちた先に、“善と悪”“家族”といった、普遍的なテーマが立ち上がる。
緻密(ちみつ)な構成も光る。