市区町村別で見ると、新宿区(東京都)付近で累積10センチメートル弱、三鷹市(同)付近で16cm程度、横浜市(神奈川県)で2cm程度、御殿場市(静岡県)で19cm近く、成田市(千葉県)で3cm程度などとなっている。

 こうした富士山の降灰シミュレーションについて、内閣府の担当者は「地震対策と違い、これまで降灰対策について十分に考えられてこなかった」という。

 火山灰は少量でも、もたらす被害は大きい。火山灰は、一般にいわれる「灰」ではなく、軽石などが細かく砕かれてできたガラスのかけらだ。吸い込めば健康被害が出る。

 地面に5ミリ積もると、ぜんそくや気管支炎の持病のある人は容態が悪化する。2センチも積もれば、ほとんどの人に気管や肺などに症状が出るといわれる。目に入れば、眼球を傷つけ視力の低下や二次的な感染リスクも出てくる。二酸化硫黄など酸性の物質が火山灰についており、皮膚につけば炎症を起こすこともある。

 交通網も完全にマヒする。自動車の吸気口に火山灰が吸い込まれれば、エンジンのフィルターがつまり、走行不能になる。火山灰によるスリップもあり、1センチの火山灰でも運転することが難しいといわれる。地上を走る鉄道は微量の灰で車輪やレールの通電不良を起こし、運行できなくなる。飛行機や船舶も火山灰を吸気口から吸い込むとエンジンが止まる危険がある。

 さらには電気・ガス・水道などのライフラインにも障害をもたらす。火力発電所のガスタービンに火山灰が入り込むと、発電設備が損傷する可能性がある。電線に火山灰が降り積もったところに雨が降ると、漏電し停電することもある。火山灰が上下水道で詰まることもある。

 パソコンなどの電子機器に火山灰が入ると、機器類の誤作動や故障の原因にもなる。鎌田名誉教授はこう警鐘を鳴らす。

「地震であればすぐに復興に向けた動きが出てくるが、富士山の噴火となると火山灰が何週間も降り続き、仮に止まったとしても数か月は降り積もった火山灰が風で舞い続けることになる。1カ月は首都機能はマヒするでしょう。関西や九州などに首都機能を移転しておくことも重要でしょう」

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被害総額は南海トラフ大地震と匹敵か