「受動的に時間割が決められてというような学びのスタイルが大嫌いで馴染まなかったんです。大学もスポーツ推薦で入りましたし。ただ、大学は探究したいことを自由に学べて研究もできる。研究は新しい知見を発見できたり、イノベーションが起こせたり、いろんな可能性を持っていると気づいたんです」
学問の力を信じ始めた町田が取り組んだテーマは、「著作権とフィギュアスケート」だった。
■演技も著作物だと実証
「法学領域の通念上、『スポーツは著作物にあらず』という考えがあり、フィギュアスケートの作品は創作者(振付師)の著作権が認められず、スケーター自身の所有物だと認識されてきました。例えば、荒川静香さんが06年にトリノ五輪で金メダルを取った作品は、荒川さんが踊るのをやめてしまえば永遠に日の目を見ることがありません。もし音楽のように著作権制度を導入し、誰もが適正な料金を支払って使えるようにすれば、優れた作品が時代を超えて踊り継がれるのではないか、と考えたんです」
早稲田大学大学院に進学した後も研究を続け、フィギュアスケートの演技が著作物であることを法学的に実証し、まず修士論文にまとめた。この研究をさらに発展させ、日本知財学会誌上で発表すると、同学会の20年度優秀論文賞を受賞。「フィギュアスケートも著作物に値する」と承認を得られた形となった。
町田は研究成果をスポーツ現場に還元するため、21年4月、著作権制度を基盤にして、過去に披露された作品を別の選手が踊る「継承プロジェクト」を試みた。町田が自身で振り付けし、7年前に演技した「ジュ・トゥ・ヴ」のプログラムを、現役の田中刑事選手(27)が再演。その過程で再確認したことがある。
「継承プロジェクトによって一つの作品が時代を超えて長く存在できると同時に、作品を継承する行為を通じてアーティストも育てられると思いました」
例えば19世紀前半に名曲を数多く残したショパンの作品は世紀を超えて現在も愛されると同時に、何千、何万人のピアニストが今日まで作品を通して演奏技術を高めてきた。