GAKUさんが次に口にしたのは、なんと「NewYork」。あまりに無謀と思いきや、クラウドファンディングに挑戦するとお金が集まり、2019年にニューヨークで個展が実現。これをきっかけに有名バッグブランドとのコラボ企画も生まれた。

■会場では「営業スマイル」も

 アーティストとして徐々にその名が広まっているGAKUさん。とはいえ、両親は多動とこだわりに合わせて暮らしているため、家では毎日バタバタだ。GAKUさんが生まれて以来、途切れることはない。それでも典雅さんは、「親は本当に大変ですよ。ただ、大変と不幸はイコールではないですよね」と笑う。

 GAKUさんが絵を書き始めて4年。旅行先で雨が降ったことがあったが、帰った後に雨粒をイメージした絵を初めて書いた。様々な場面で何かを吸収し表現する姿に、何度も驚かされてきた。

 個展の会場では「営業スマイル」を作るようになった。お客さんに近づいて、笑顔で何かを話しかけるのだ。

「『みやまえだいらにちゅー!』って、通っていた中学の名前を言ったりするだけですが、それが自分の仕事だとちゃんとわかっているんです」と典雅さん。息子なりの自立を、親として感じ取っている。

 GAKUさんのアーティストとしての活動が本格化する中で、障害をどこまで明かすか、周囲と話し合ったこともあったという。結果、何も隠さないことに決めた。

「自閉症は、まだまだ知られていません。奇妙な人がいると思われてしまうだけのこともあります。息子を通じて、自閉症にどのような特性があるかを知ってもらえたら、他の自閉症の当事者や家族の生きやすさにつながるんじゃないかと思うんです。そして、障害当事者にもその人なりの可能性があるということ。その大切なことを息子の姿と作品から感じ取ってもらえたらと考えています」

 言葉をほとんど持たないGAKUさんのありのままの姿とその絵が、何かをつなげる。アーティストとしてだけではなく、もう一つの可能性も典雅さんは信じている。

(AERAdot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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