長尾客員教授はこういう。
「巨大地震に注目が集まりますが、自然災害においては、恐竜が絶滅した白亜紀後期の小惑星の衝突といった出来事を除けば、火山噴火が桁違いに大きな被害をもたらします。アメリカのイエローストーン国立公園で超巨大噴火の可能性が指摘されており、破局噴火を起こしたら、北米だけでも2億人が亡くなるとされています。歴史的事実として、破局噴火は日本では1万年に一度程度の割合で発生しています」
『火山大国日本 この国は生き残れるか―必ず起きる富士山噴火と超巨大噴火』の著書がある神戸大の巽好幸名誉教授(マグマ学)は「超巨大噴火は、日本列島で過去に何度も起きてきた」と語る。地質の記録がしっかりしている過去12万年で見ると、これまでに7つの火山で11回も超巨大噴火が起きている。いずれも巨大なカルデラをつくった噴火だ。
超巨大噴火は北海道で5回、九州で6回起きているという。巽氏は、この二つの地域は地殻の変形速度が遅いため、マグマが上昇しやすく、巨大なマグマだまりをつくる結果、超巨大噴火を引き起こしているとしたうえで、こう指摘する。
「超巨大噴火が起きるとしたら、北海道か九州で起きる可能性が高いと言える。北海道で起これば北海道は壊滅、九州で起こった場合は、火山灰が偏西風に乗り、被害を全国に拡大させる恐れがあります」
いったいどのくらいの被害をもたらすのか。ここでは巽氏が試算したシミュレーションを紹介しよう。
2万8千年前に起こった姶良・丹沢噴火(噴火M8・3)と同じ規模の噴火が、人口が多い中部九州で起きた場合どうなるか。まず、火砕流が周囲100キロを覆い尽くす。 数百度とも言われる高温の火砕流は発生後2時間程度で700万人の人々が暮らす九州のほとんどの地域を焼き尽くしてしまう。
その後、日本全国で火山灰が降り注ぎ、大阪では50センチ超も降る。1日以内に4000万人もの人が50センチ以上の火山灰の被害に会う。首都圏でも20センチ、青森でも10センチもの火山灰が降る。北海道東部と沖縄を除き、2日で全国の電気、水道、ガスなどのライフラインは完全に停止する。