今や最大派閥の清和会を内心では「傍流とみなしてきた」のが宏池会だ。森喜朗元首相、小泉純一郎元首相、安倍元首相と続いた清和会政権は、「経済政策や安全保障政策など全てにおいて雑だった」との認識も強い。だからこそ、「宏池会3派が団結し、緻密で丁寧な政権運営をしていかなければならない」というのだ。
このベテラン議員によると、麻生氏は今夏の参院選後、派閥を鈴木俊一財務相に譲るつもりだという。鈴木氏は宏池会で首相になった鈴木善幸氏を父に持つ。宏池会本体(岸田派)と合流するなら、このタイミングだ。
思惑は一致して見えるが、岸田首相が事を前に進めるには、麻生氏の“条件”をのむことが必要だという。宏池会中興の祖、大平正芳元首相の命日である6月12日に、派閥の重要行事である墓参りを岸田首相が仕切るよう求めているというのだ。
大平氏の墓は東京・府中の多磨霊園にあり、これまで墓参は麻生氏の“仇敵”古賀誠元幹事長が主催してきた。昨年は宏池会から9人が参列したが、首相は欠席した。
この墓参を岸田首相が取り仕切ることになれば、古賀氏の影響力は完全に排除される。麻生氏にすれば、首相が「宏池会の“本尊”である大平氏の魂を名実ともに継ぐことが、合流に不可欠な段取り」なのだ。
大宏池会ができれば、首相の政権基盤が強化され、林氏に加えて麻生派の河野太郎広報本部長も「ポスト岸田」の有力候補として躍り出ることになる。安倍氏にとって「おもしろくないこと極まりない」(安倍派中堅)展開だ。
「岸田、林、河野の3氏で10年は政権を担う。平成研究会(茂木派)には茂木敏充幹事長や小渕優子元経済産業相がいる。党内リベラル勢力で20年は政権を続けたい」(前出のベテラン議員)
岸田首相は大平氏の位牌を守る女婿、森田一・元運輸相と定期的に連絡を取っており、「次は必ずお参りいたします」と伝えているという。
首相は11日夜、久しぶりに安倍氏と会食した。「敵に回さない配慮では」(政府関係者)の臆測が飛ぶ中、岸田首相は周辺にこう語ったという。「参院選までが引き締めどころだ。ここを乗り越え、来年のサミットを地元・広島県で開催する!」
岸田首相の真価が問われるのはこれからだ。(本誌・村上新太郎)
※週刊朝日 2022年1月28日号