岸田文雄政権が始動して約3カ月余り。内閣支持率も上昇し、滑り出しは順調とも見えるが、水面下で緊張が高まっている。岸田首相らと大宏池会構想を画策する麻生太郎氏と、最大派閥の会長である安倍晋三氏の関係に、亀裂が入っているのだ。熾烈な覇権争いの舞台裏をリポートする。
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「今年はコロナ禍を克服していく。何とか新薬もでき、ワクチンも出そろってきた。直ちに対応できるよう日本産を増やしていく。世界の真ん中で輝く国になっていく第一歩にしていきたい」
これは1月1日、MXテレビで放送された報道番組の最後に、今年の展望を問われた安倍晋三氏の発言だ。普通なら現職の岸田首相を支えると言いそうなものだが、岸田の「き」の字もなし。永田町では“キングメーカー宣言”と受け止められた。岸田派(宏池会)のベテラン議員が渋い表情で話す。
「『何かあればいつでも政権を担える』と、岸田さんにプレッシャーをかけているんだよ。安倍さんの真意は、『歴代の清和会会長は日本政治の背骨を担ってきた。その職責に全力を尽くす』ということではないか」
東京圏にしか放送されないMXテレビで飛び出した安倍氏の発言。岸田政権誕生後の人事で高市早苗氏の幹事長就任など自身の案が通らず、「相当いら立っていた」(安倍派議員)ことの証左なのか。
安倍氏のいら立ちの背景には、長年、盟友関係だった麻生太郎氏との確執もある。
そもそも安倍氏と麻生氏は、国政へのスタンスが微妙に違う。
安倍氏の祖父、岸信介元首相は、日米安保条約を改定すると共に憲法改正を訴え続けた。一方、麻生氏の祖父、吉田茂元首相は軽武装・経済重視路線。憲法改正が悲願の安倍氏に対し、麻生氏は改憲論者とはいえ経済運営に軸足を置いている。「祖父以来のタカ派とハト派という流れはそれぞれ脈々と受け継がれており、岸田政権の誕生で2人の盟友関係が引き裂かれる可能性は十分ある」(古参政界関係者)