かつて大勢の人でにぎわったホータンのバザールの入り口には柵が設けられ、自由な往来はできなくなった(左は13年、右は18年、撮影:川嶋久人)
かつて大勢の人でにぎわったホータンのバザールの入り口には柵が設けられ、自由な往来はできなくなった(左は13年、右は18年、撮影:川嶋久人)

 ウイグル族の住民が最も恐れているのは、強制収容所に送られることだという。中国政府はあくまでも職業訓練を目的とした施設としているが、収容の強制性や施設内部での拷問などが徐々に明るみに出て、国際的な問題となっている。

「中国政府は、『信仰の自由はある』と言っているんですが、実際には、1日5回礼拝するような信仰心が強くて、影響力がある人はどんどん強制収容所に入れられている。みんな、それを知っているから、お祈りに行くのはやめよう、スカーフを巻くのはやめようと、どんどん萎縮してしまっている」

 川嶋さんは18年の1月と9月に、それぞれ1カ月ほど現地に滞在した。

「メインはカシュガルとホータンで、いままで訪れたところを撮影しました」

 以前の街の様子と比較するように撮影した作品を見せてもらうと、その変わりように言葉を失った。

 かつて多くの人々でにぎわっていたモスクや市場は閑散としている。入り口には物々しいゲートが設けられ、警察官に身分証明書を提示しなければ中に入れない。モスクが破壊され、駐車場になってしまった場所もある。

 写真撮影を断られることが多くなり、自宅に招かれることともほとんどなくなったという。

「外国人とつながりのあった人たちは強制収容所に送られてしまった。だからもう、家には入れてくれないんです」

 写真を撮っていると、警察に通報されることも増えた。

「警察署に連れて行かれて、『どこから来た?』『目的は何だ?』と、取り調べを受ける。だいたい2~3時間。長いときは6時間くらい。取り調べが終わると、車に乗せられて、その場所から強制退去させられる」

ホータンのバザール前の荘厳なモスクは跡形もなく消え、駐車場になっていた(左は10年、右は18年、撮影:川嶋久人)
ホータンのバザール前の荘厳なモスクは跡形もなく消え、駐車場になっていた(左は10年、右は18年、撮影:川嶋久人)

■執拗な当局の尾行

 川嶋さんが前回、同自治区を訪れたのは19年夏。

「これがコロナ前に訪れた最後になりました。3週間、滞在したんですが、もう何もできなかったです。常に誰かにつけられているのが気になって、写真を撮るどころではなかった。知り合いに会っても、すごくよそよそしくされました」

 当局の尾行には、相手に気づかれないように尾行するやり方と、それとは逆に、あからさまに尾行していることを相手に見せつけて威圧するやり方がある。川嶋さんの場合は後者だった。

「街によって違うんですが、例えば、ホータンでは警察官がずっとついてきた。制服は着ていませんが、無線機とかを持っているので、警察官と分かる。別の街では、一般人のような人がホテルのロビーでずーっと待機していて、ぼくが表に出ると、それと分かるように尾行してきた」

 実はこのとき、川嶋さんには撮影以外に、もう1つ別の目的があった。

「在日のウイグル族の人に、『親と連絡がとれない』と言われ、『生存しているのか、故郷を見てきてほしい』と頼まれたんです」

 しかし、「無理でしたね。たどり着けなかった」と、声を落とす。

「検問所がたくさんあって、ぼくがどこを移動しているか、常に把握されていた。交通機関のチケットも売ってくれない。近づくことさえできなかったです」

 身近なDVなども含めて、人権侵害は人目に触れないところで深刻化する。川嶋さんに対する当局の執拗な尾行は、これまで撮り続けてきた作品が「ウイグル問題」の核心に迫ることを証明しているようだ。

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】川嶋久人写真展「失われたウイグル」
富士フイルムフォトサロン 東京 1月21日~1月27日
富士フイルムフォトサロン 大阪 2月4日~2月10日

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