■「よりどころ」を求めて
――描かれるのは人生半ばを過ぎた男の孤独、悲哀、自分の存在の不確かさだ。
豊川:桐生は「自分がどう生きていきたいのか」が見つけられない男だと思うんです。それを考えてもらうために自分の分身を作った。考えるのを投げたんですよね。だから「もう一人の自分」であるアンドロイドがなくなったら生きていけない。
阪本:うんうん。
豊川:人間って仕事でも家族でも趣味でもいい、自分が少し弱くなったときに寄り添えるもの、支えてもらえる「よりどころ」があるかどうかだと思うんです。この映画は結局「人間は一人じゃ生きられない」ということを大きく言っているんじゃないか、と演じながら思いました。
阪本:僕はずっと独身で、誰かの父親でも夫でもない。両親も見送ったいま、よりどころは「映画監督である自分」しかないんです。で、いったん「これからどうする?」となったとき「ちゃんと恥をかいて終わりたい」という思いがあった。今回の作品に託しているのは、自己愛や僕の「幼さ」なんですよ。でも僕のそういう弱みは、全部豊川君にばれているんで。
――二人は監督・主演で初タッグを組んだ「傷だらけの天使」(1997年)以来の付き合いで、飲み友達でもある。
阪本:ある種、プライベートな部分も吐露してきたし、それでこの役を頼んだようなものです。「知ってるやろ、オレのこういう部分はもう前から」って許しを請いながらやっていた。
豊川:ははは。
■「父を知らなすぎた」
阪本:それに映画を作っているときは一緒に飲むけど、僕は基本家で一人でいることが多いんです。テレビも見ないし、音楽も聴かず「シーン」としたなかで、何時間でも飲んでる。そのとき考えるのは結局、映画のこと。「オレはなにをやりたいんだ」「オレはオレは」ばっかり。独善的ですよ。でもすごいさみしがり屋でもあるから、一人では物づくりはできない。映画とか仲間とか、そういうところにいないと本当に崩壊しちゃう。