お金持ちの特権だったアート作品の売買が、ネット上での売買によって、一般にも広がっている。なかでもアジアで勢力を伸ばすのが、世界120カ国以上のアート作品、約41000点を網羅した日本発の大型マーケットプレイス「TRiCERA ART(以下、トライセラアート)」だ。アート連載「なぜいま、億単位のアート作品がポチられるのか」。第2回目は、世界のアート作品を気軽に「ポチっと」できるマーケットプレイスのお話。
【写真】ナイキ出身、アート作品のマーケットプレイスをつくった井口さん
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全作品、真贋証明書付き。全世界、送料無料。アジア最大級ともいわれるアート作品のマーケットプレイスをつくったのは、日本の若者だった。
とにかく選ぶのが楽しい。絵画だけでも、水彩画やアクリル画、ポップアートなど幅広いジャンルを扱う。そして彫刻などの立体物もあれば、NFT作品のようなデジタルアートも。数千円から数万円で買えるものも多く、なにより誰かに売りつけられる心配もない。「この絵はリビングに合うかも」「これはピントこないな」……いつしか絵画オーナーの気分になる。そうか、お金持ちはこんな体験をしていたのか。
■"Just do it" ナイキの精神がアート業界に
立ち上げたのは、TRiCERAの井口泰(たい)さん。数年前までは会社員で、芸術作品とは無縁だった。人生が変わったのは、2015年に入社したスポーツカンパニー・ナイキでのこと。当時井口さんはサプライチェーンの仕事に従事しており、日々、物流会社などとの調整をこなしていた。
あるとき、会社から「次世代幹部向けの研修に出ないか」と誘われ、アメリカ・ポートランドの本社に行った。街にはアート作品が飾られ、オシャレなコーヒーショップや雑貨屋もたくさん。その開放感のなかで聞いたナイキの創業物語が染みた。創業者は父親から借りた50ドルで会社を立ち上げたこと、戦後まもなく敵国である日本に出向いて日本のシューズを輸入したこと……根底にあるのは、たったひとつの精神だけ。