「解決したいことがあれば、自分でやる。Just do it. その精神を叩き込まれて奮い立ちました」
すぐに起業を志したが、はて、何をしようか頭を抱えた。ポートランドのオシャレな街並みに惹かれて「アート事業はどうか」と考えたが、芸術の知見は浅い。アーティストに転向するのも非現実的だ。ただ、小さいころに子役を経験し弱肉強食の世界を目の当たりにしたことから「成功できないアーティストの支援」は、なんだか必要な気がした。サプライチェーンの知識を生かし、作品をよりたくさんの人に、ストレスなく届けられないかと考えた。これがのちの「トライセラアート」だ。
■立ち上げ当初から世界を視野に
井口さんのマーケットプレイスやその思想は、いろんな意味で受け入れられた。理由、その1。アート業界は閉じられた世界だったこと。
アーティストは自らの作品をギャラリーに預け、ギャラリストが特定の客に売る。このクローズな世界に入れるのは、ごく一部の成功したアーティストと金持ちだけだ。結果、生活できないアーティストが大勢生まれてしまう。
「アート業界はムラ社会のようなもの。音楽はテレビやラジオなどのマスメディアに乗ることで多くの人に届きましたが、アート作品にも“マス化”が必要では、と思いました」
トライセラアートでは、アーティスト自身が作品を出品し、気に入ったユーザーが購入する。このオープンな思想が支持され、出品数は一気に増えた。アート作品を扱うマーケットプレイスはほかにもあるが、ギャラリーが出品する仕組みになっていたりと、なかなか「ムラ社会」から抜け出せていない。
理由、その2。世界に門戸を開いたこと。アート作品は文学や映画と違って翻訳する必要がない。立ち上げ当初から7言語の検索エンジンに対応するように設計し、世界を視野に入れた。
「いまの時代、検索して引っかかってくることが重要です」
理由、その3。サプライチェーンを重視したこと。世界に門戸を開くということは、作品を海外に発送するが、その責任をアーティスト個人に委ねてはトラブルになる。考え抜き、シンプルながら高品質な仕組みを構築した。