
■富江の呪い?
伊藤さんはやはり富江に思い入れがあるようだ。
「富江は私のキャラクターの基準のようなものです。しかも“この世で一番美しい女性”という設定なので、それ以外の女性は違う描き方をしないといけない。あまりバリエーションがないのに枷をはめられて苦労しています。これはもう“富江の呪い”です(笑)」
デビュー以来、220タイトルを超える作品を生み出してきた伊藤さん。自身のベスト作品はその時々で変動するが、
「『首吊り気球』『長い夢』『阿彌殻断層の怪』『死びとの恋わずらい』は、ほぼ不動のベストです。『富江』も『うずまき』も大切な作品でベスト10には入りますが、私はどちらかというと短編のほうがうまくいくパターンが多いんです。自分の目指したテーマが明確に出やすいのかもしれません」
最近はネットメディアで作品を発表し、その後雑誌に掲載し、書籍化されるパターンも多い。
「雑誌の連載よりも時間を長くいただけるので有り難いんです。描き込む時間も長くとれる」
冬には新刊を発表予定。お忙しいですね、と水を向けると、
「まあ仕事というより、子どもの習い事の送り迎えが忙しいんです。あと猫の世話もありますので」
あくまでも謙虚でユーモアたっぷりの伊藤さんなのであった。

(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2022年8月8日号