ほかにも、ステロイド剤や免疫抑制剤も治療に使う。炎症を抑える効果に加え、自己抗体の産生を抑える効果も期待しての措置だという。WHO(世界保健機関)は今年1月、オミクロン株について、鼻やのどといった上気道の炎症を引き起こしやすいものの、ほかの変異株に比べて肺まで達して重症化するリスクは低い、との見解を示した。これについて山村さんは言う。
「病原性ウイルスが肺に入って症状を悪化させるのと、後遺症を起こすメカニズムは別と考えています。後遺症には上咽頭の炎症を治療するアプローチが必要です。これはオミクロン株でますます重要なポイントになるはずです」
新型コロナの後遺症でブレインフォグを患っている人はどれぐらいいるのか。
山村さんは「海外の統計では10~20%と言われています。東京都世田谷区が後遺症の調査をしていますが、全身の倦怠感を訴えた人のうち、かなりの割合がブレインフォグになっている可能性があります」と指摘する。
世田谷区が昨年9月に公表した、新型コロナの後遺症に関するアンケートによると、回答者のうち、「後遺症がある」と答えたのは1786人(48%)。30~50代で「ある」がいずれも半数を超えていた。後遺症の症状別でトップの嗅覚(きゅうかく)障害(971件)に続いて、全身の倦怠感(893件)が多かった。
■早期治療が鍵を握る
慢性的な自己免疫反応を防ぐには早期治療が重要だという。
「感染してから半年はすごく重要です。遅くとも1年以内にはブレインフォグの治療が必要です。安静にしておくべき初期段階に勤務先の都合で激務にさらされたり、いじめにあってストレスを受けたりした人たちが難治化しています」(同)
ちなみに、オミクロン株の感染拡大が先行している沖縄で新型コロナの診察に当たる沖縄県医師会理事の医師によると、倦怠感を訴える患者は目立つが、ブレインフォグの症状を訴える患者はいない、という。
この医師は「倦怠感とブレインフォグの症状は全く別ですから、混同することはありません」と話した。
医師の間でも判断は分かれており、実態をつかむのは難しい。ただ、社会や周囲の理解がないために難治化してしまう実態を踏まえれば、海外の情報も踏まえて議論を深め、ブレインフォグの患者が症状を訴えにくい状況を改める必要はあるだろう。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2022年1月31日号