「5月下旬に緊急事態宣言が解除されて、『次の流行の波は秋かな』と言われていたとき、6月12日に『7月に第2波が来る』と予測したら、それに近いかたちで感染者数が推移したのです」
実は、このモデルの背景には政策研究大学院大学だけでなく、中央省庁の関係者や、東京大学、大阪大学などの研究者、さらに感染症や看護の専門家からなる「危機管理研究会」の存在があり、メンバーらとの議論を基に、モデルによる予測値と実際の感染状況との間に生じたズレを常に修正してきた。
土谷教授の専門は「オペレーションズ・リサーチ」。これまで新型コロナを含め、さまざまな現実問題に対して、数理モデルを駆使してそれらの解決に取り組んできた経験が生かされている。
さらに、土谷教授は新型コロナのシミュレーションに関しては、「できるだけ、手堅いデータをモデルに取り入れてきた」と言う。
「データが蓄積され、明らかになった値を採用する。だから、ほかのみなさんの予測モデルと比べて、ぼくがワクチンの効果を組み込んだのは昨年9月と、だいぶ遅いんですよ」
■たった1週間でワクチンが効かなくなった
そんな土谷教授でも、オミクロン株の感染力は当初の想定をはるかに超えていたという。目を疑うような感染データが飛び込んできたのは、年明け直後。
「東京都が公表したデータを基に計算すると、12月25日のワクチン接種者の感染確率は未接種者に対して21%だった。ところが、1月4日には77%と激増した。たった1週間でワクチンが急速に効かなくなっていた」
これまでとは比較にならないほどの感染力を持つオミクロン株が凄まじい勢いで広がり始めているのを感じた土谷教授は衝撃を受けた。
「当初流行した武漢株からデルタ株まで、モデルの設定値を調整する必要はほとんどなかったんですが、オミクロン株が出てきてからは設定値をリセットするくらい調整し直さないと、まったく現実と合わない状態になってしまった」