一方、最初にオミクロン株が発見された南アフリカをはじめ、イギリスなどでは強い対策を打っていないのに感染者数の増加がピークアウトし、減少しているのが気になった。

 教授は新型コロナ感染症の数理モデルに取り組み始めた当初から、ウイルスに感染しながらも、発熱などの症状をともなわない、未発症の感染者の存在に一貫して着目してきた。

「その人たちは、ある意味、ワクチンを接種したのと同じ状態になるわけです。例えば、南アフリカのワクチン接種率は人口の3割以下。未発症の感染者は行政が把握している数よりもずっと多くて、その人たちが感染を広げると同時に、『集団免疫』をもたらした。感染症の数理モデルを扱っている立場からすると、そう考えないと、感染者の減少という現実とつじつまが合わない」

■集団免疫獲得説が正しいとして

 この「集団免疫獲得説」が正しいとして、土谷教授のシミュレーションの話をすすめよう。感染が収束に向かった国々では集団免疫が獲得されつつあるならば、実際の未発症感染者数は、南アフリカでは行政が把握している数の約100倍、イギリスでは約10倍。この値はPCR検査数やワクチン接種の状況で変わってくる。たとえばPCR検査数が多いほど行政は無症状や未発症の陽性者を把握できるので、値は小さくなる。

 南アフリカは日本とはかなり国情が異なるため、イギリスでの新型コロナ対策について調べた。

「イギリスでは、国民の約半数が3回目のブースター接種を受けており、PCRの検査数も東京の10倍程度になります」

 そうした情報を参考にしたうえで、土谷教授は今後の東京都における感染状況をシミュレーションした。

政策研究大学院大学土谷隆教授の研究室のサイトより
政策研究大学院大学土谷隆教授の研究室のサイトより

 すると、実際の未発症感染者数が、行政が把握している20倍とした場合、新規陽性者数は2月4日に3万668人。30倍とすると、流行のピークは低くなり、2月1日に2万3270人という結果が導き出された。

「実は強力な感染症の対策をとれば、ピークを抑えることができる一方、感染者の減り方は遅くなります。医療崩壊を防ぐためには、ピークを下げることに大きな意味がありますが、そのバランスをどうとるかが難しい」

 コロナとの共存は一筋縄ではいかないようだ。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)