老朽化した水道管
老朽化した水道管

 水道事情に詳しい水ジャーナリストで、武蔵野大学客員教授の橋本淳司さんはこう話す。

「水道管は法定耐用年数を過ぎたからといって、すぐに壊れるわけではありません。材質にもよりますが、実際には50~60年くらい使いながら更新することが多い。しかし、財源や人材不足で全体的にうまく進んでいません」

 更新には高い技術やノウハウがいる。水道事業に携わる職員が減れば、技術も引き継がれない。人手が足りなければ、職員の負担も増す。自分が住む街の水道管は大丈夫か、不安に感じる人も少なくないだろう。

 示唆に富むデータがある。米シリコンバレーに拠点を置くAI(人工知能)ベンチャー、Fracta(フラクタ)社が昨年4月にまとめた「全国自治体における破損確率の推計」だ。同社はAIやビッグデータを使って上下水道やガスなど、社会インフラの劣化状態を予測、診断するソフトの開発を手がけている。

 推計は、全国の可住地域を2キロ四方のエリア(メッシュ)で区切り、それぞれ今後1年以内に、1カ所以上で水道管の破裂や漏水事故が起きる確率=破損リスクを調べた。日米英3カ国の約100事業体の30万件を超す破損・漏水事故のデータを読み込み、事故パターンを学んだAIを用いた。

 フラクタ日本法人代表の樋口宣人さんは言う。

「水道管は、埋まっている環境によって劣化の度合いが変わります。さまざまな要因が絡み合い、その過程は複雑。同じ時期に埋めた管路でも、一様ではありません。当社は、事故が起きるパターンを学んだAIが、それぞれのメッシュによって異なる地盤や気象条件、利用状況、交通事情といった水道管を取り巻く1千以上の環境変数を考慮し、破損事故が起きる確率を予測しています」

 域内すべてのメッシュの平均値が、各自治体の管路環境のリスクということになる。データが不十分な離島などがある沖縄県や、小規模でほかと比べるのが難しい自治体などを除く1355の自治体が対象。

(週刊朝日2022年2月4日号より)
(週刊朝日2022年2月4日号より)
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