長谷川弁護士は「モザイクなどの画像処理をせず、人物が特定されやすい形で公開した場合は、特殊事情がない限り法的責任を問われる可能性が高い」と解説する。
先のトレーディングカード店も、返却に応じなかったらといって本当にモザイクを外せば、法的責任が生じかねないということ。名誉毀損は被害者の告訴が必要な「親告罪」だが、加害者は手続きを取って捜査を求めたり、店に損害賠償を求め民事裁判を起こすことも可能だ。
長谷川弁護士は「法律の解釈はそうですが」として、こう付け加える。
「万引の加害者がそうした行動に出た例は、私は聞いたことがありません。加害者が店から受けた『被害』について、警察が本腰を入れて捜査するのかは疑問です。また、捜査や裁判になれば、加害者のさまざまな個人情報が明るみに出ます。加害者がそのリスクをわざわざ負うかという点を考慮すると、実際に店側が責任を問われる事態にまで発展することは考えにくいと思います」
ネット上では、店側を擁護する意見が目立つ。法的な正当性と市民感情に隔たりがあることは否めない。
長谷川弁護士は「被害店舗が泣き寝入りする必要はありませんが、さらしたもの勝ちになってしまう風潮は良くないと考えます」と話し、店側の“盲点”を指摘する。
「警察に被害を相談するなどの手続きを取らず、感情的になっていきなり犯人とされる人の写真を公開すれば、それは同時に、自ら『法律の外の世界』に出てしまったということです。そうなると、善悪の判断は感情に委ねられてしまう。写真のさらし方によっては被害者と加害者が逆転する事態になりかねず、被害者なのに『ひどいことをした』などと世間からたたかれてしまう可能性もあります。また、万が一、写真の人物が犯人ではなかった場合、法的な責任を負うのは当然ですが経営にも大変な影響が出るでしょう。そうしたリスクがあることは、店側も理解して行動してほしいと思います」