かつては「天才将棋少女」と呼ばれ、羽生善治棋士と対局したこともあるという越野沙織医師。現在は研究医としてAI画像診断の研究に邁進している。週刊朝日ムック『医者と医学部がわかる2022』(朝日新聞出版)では、目標は「世界中の患者を救うため」と語る越野医師の、これまでの歩みを聞いた。
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放射線科医として画像診断の研究を続けている越野沙織医師。研究者として初めて認められたのは、高校1年生のときだった。高校生、高専生を対象にした国内最大級の科学技術コンテスト「高校生・高専生科学技術チャレンジ」(JSEC)で最優秀賞を受賞し、米国での国際科学技術コンテスト「国際学生科学技術フェア」(ISEF)にも出場したのだ。当時の研究テーマも画像診断に関するものだというから驚く。
「10歳のときに、イラストロジックというパズルを解くための公式を思いついたんです。それを利用すれば、CT(コンピュータ断層撮影)の画像処理速度が速められるのではないかと思って小学5年から研究を始めました」と言うが、普通の小学生はパズルとCTを結びつけたりはしないだろう。そのひらめきは運命的な偶然によるものだった。
イラストロジックとは、与えられた数字を手掛かりにマス目を黒く塗って絵にするパズルだ。完成した絵はデジタル画像のようにも見える。6歳から夢中になり、10歳ごろには速く解くための公式を編み出した。
同じころ、越野医師は原因不明の尾骨の痛みに悩まされていた。歩けなくなり「車いす生活になるかもしれない」という不安に苦しみながら、大学病院などでさまざまな検査を受けた。原因は成長痛だとわかり、心から安心した。
「身をもって検査の重要性を知りました。医療スタッフの人たちにも支えていただいたので、私も医療の世界で人の役に立ちたいと思うようになったんです」
自分に何ができるのか……そう思ったとき、何度も見たCT画像が浮かんだ。