仏語学の校長らが損害賠償などを求めて提訴する騒動に発展した。
結局、東京地裁はこの訴えを棄却。石原都知事が公式に謝罪したという、当時の報道も見当たらない。
仏語への揶揄発言から4年を経た2008年。フィリップ・フォール駐日仏大使が石原都知事のもとを、着任の表敬訪問に訪れた。
多賀さんは、東京都儀典長として都庁の知事室で行われた会談に同席した。
揶揄した方は忘れても、された側の怒りは4年を経てもおさまらない。
フォール大使は開口一番、こう切り出した。
「大使館には、石原都知事に抗議しろとメールがいまだにたくさん届いて戸惑っている」
とくに謝罪するふうでもない石原都知事にしびれを切らせたのだろうか。大使は、石原知事の仏語への揶揄をやり込めるように、こう口を開いた。
「日本語も、鳩は一匹(ぴき)、二匹(ひき)、三匹(びき)と単位の読み方自体が、直前の数字によって合理的ではない変化をする。日本語こそ非論理的である」
すぐさま、石原都知事はこう切り返した。
「鳩は日本語では一羽(いちわ)、二羽(にわ)と数える!」
儀典長としてその場に居合わせた多賀さん曰く、
「どちらの『攻撃』もややピント外れで、話はすこし横にズレてしまいました。しかし、さすが政治家だなと思ったのは石原都知事が展開させた話題の方向でした」
石原都知事は、ド・ゴール政権下で文科相を務めた作家、アンドレ・マルローの名前を出してこう切り出した。
「自分は、アンドレ・マルローをよく知っている。彼の『王道』は読んだか」
マルローは、若いころはレジスタントの闘士という顔もあったが戦後はドゴール首相のもとでミロのビーナスやモナ・リザの日本展など日仏の文化交流を推進した人物でもある。
「インテリ層のフランス人でマルローの名前や著書の『王道』を知らないひとはいません。日本でもよくあることですが、一方でその著名な本を読破したインテリ層も案外少ない。石原都知事は、それを知っていてフランス人相手の駆け引きに度々、『王道』を読んだか、という台詞を用いました」(多賀さん)
大使も未読であったのだろうか。しだいに声が小さくなった。
石原氏は、仏語への「侮辱問題」を、強引に煙に巻いてしまった。