松元ヒロ (撮影/写真部・高野楓菜)
松元ヒロ (撮影/写真部・高野楓菜)

 政治を笑い飛ばし、社会問題に鋭く斬り込むことで知られる芸人・松元ヒロさん。鹿児島テレビがその活動を追ったドキュメンタリー「テレビで会えない芸人」が映画化され、話題を呼んでいる。松元さんの演じ方やコントの面白さなどを聞いた。

【この記事の画像の続きはこちら】

前編/「テレビで会えない芸人」松元ヒロ テレビから離れた理由は「気の弱さ」?】より続く

*  *  *

──昨年末の紀伊國屋の舞台を拝見したら、水俣を撮った写真家ユージン・スミスを取り上げられていました。入浴する水俣病患者を撮った代表作を、さながらこんなふうに撮影したんだろうなと目に浮かぶように演じられていて。資料を丹念に読み込んでおられるのが伝わってきました。

「ジョニー・デップの映画『MINAMATA』や土方正志さんの児童書『ユージン・スミス 楽園へのあゆみ』、石井妙子さんの『魂を撮ろう』なんかを読み、ぜったいやろうと思っていたんです。これとこれと言いたいことを書きだすんですけど、頭が悪いもので最後は映画を見るようにして、頭の中にいるユージン・スミスを追いながら自分が演(や)っている。ここに五右衛門風呂があって、こうやってカメラを構えている。ここであのセリフを言うんだとやっていると僕も飽きないし、冷静になれるというか」

──面白い演じ方ですね。

「それで、お客さんが笑っていないと『面白くないですか?』と声をかける。そうすると、お客さんが笑う。これはコントの面白さなんですよね。素の我に返るというのは」

──素に戻るんですか?

「昔『お笑いスター誕生!!』という番組に出ていたときに3人でコントをやっていて、最高に自信のあるギャグが受けない。そのとき『あれ?』と声が出て、ドカンと受けたんですよ。すべったなぁと本人の一番弱い部分を見せられると、コイツも人間なんだ、わかるわかるとなるんですね」

──してやったり、ではダメなんですね。

「ひとはその人間を嫌いだと笑わないですから」

──ところで家の中がチラッと映っていたんですが、壁に3人の写真が飾ってありますよね。ひとりはチャプリン。若い頃、松元さんもパントマイムから始めたという逸話が紹介されていますが、あと2人がオードリー・ヘプバーンとチェ・ゲバラなんですね。

「ヘプバーンはきれいなひとだなぁというのと、ゲバラは世の中を変えることに命を懸けたひと。学生運動があった時期、高校生だったんですが『ゲバラ日記』とかも読みました。もう内容は忘れましたけど。ハハハハ。新しいネタを入れると脳みそから押し出されてしまうんです」

(聞き手・構成/朝山実)

週刊朝日  2022年2月11日号より抜粋