ところで、対米従属からの脱却、自立のための憲法改正、軍隊の必要性を石原氏が主張した件だが、私がまったくリアリティーがないと批判したのは、すでに何度も書いたが、1971年秋に宮沢喜一氏から聞かされた論理にすっかり感服していたためである。
“日本人は自分の体に合わせて服をつくるのは下手だ。押し付けられた服に体を合わせるほうが安全だ”。つまり、米国から押し付けられた憲法に合わせて、安全保障を米国に委ねるということである。
池田勇人首相以後、歴代首相はその流儀でやってきた。
だが、米国の経済力が大きく落ち込んで、オバマ大統領が「米国は世界の警察官をやめた」と宣言し、トランプ大統領は「世界のことはどうでもよい。米国さえよければよい」と言い切った。“米国による平和”を放棄したわけで、日本の安全保障を米国に委ねているわけにはいかず、主体的に安全保障体制を構築し、対米従属ではなく、自立しなければならなくなった。当然、憲法改正が必要である。
つまり、石原氏の主張がリアリティーを持たざるを得なくなってきたわけだ。そんなときに、石原氏は帰らぬ人となってしまった。残念至極である。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2022年2月18日号