AERA 2022年2月14日号より
AERA 2022年2月14日号より

 ウクライナは14年の危機のあと軍の整備を進めてきた。国内総生産(GDP)に占める国防予算は4%超。米国だけでなく英国も対戦車ミサイル供給に踏み切った。今のウクライナ軍はなすすべもなく領土を失った8年前と同じではない。侵攻すればロシア軍も相当な犠牲を覚悟する必要がある。

 14年の危機ではロシア国民がクリミア併合に熱狂し、プーチン氏の支持率が9割近くに跳ね上がった。しかし、今回、世論の反応は読みにくい。

 プーチン氏にはロシアが90年代から「冷戦の敗者」として扱われてきたとの不満がある。クリミア併合から4年後の18年、自ら数々の極超音速兵器の開発を発表。「強くなったロシア」を誇示し、「これまで誰もロシアの声を聞かなかった。今こそ聞くべきだ」と豪語した。

「ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的惨劇」というプーチン氏の発言はよく知られるが、一方では「ソ連崩壊を悔やまない人は心がなく、ソ連復活を願う人は頭がない」とも話し、今ソ連復活を考えているわけではない。

■帝国の発想そのもの

 しかし、隣国ウクライナへの対応は他国とは異なる。

 ウクライナは欧州との間に挟まれ、ロシアにとっては欧米との緩衝地帯の意味がある。さらに中世の大国「キエフ・ルーシ公国」の流れをくむ「兄弟国」との見方にこだわるプーチン氏は、昨年7月の論文で「本当のウクライナの主権はロシアとのパートナー関係の中でのみ可能になる」と論じた。東欧を支配したソ連の「制限主権論」(ブレジネフ・ドクトリン)をほうふつとさせる考え方は、17世紀から帝政ロシアの支配下で「小ロシア」と呼ばれ、1991年のソ連崩壊でようやく独自の道を歩み始めたウクライナにとっては帝国の発想そのものだ。

 ウクライナをNATO加盟へ傾斜させたのも、こうしたプーチン氏の姿勢だ。

 独立後のウクライナはもともと親欧州の西と親ロシアの東で世論が二分されていた。軍事的には中立指向が強く、13年の世論調査でNATOを「守護者」としたのは17%だけ。29%がNATOを「脅威」と見なしていた。しかし、昨年12月の調査ではNATO加盟に賛成するという人が59.2%にも上った。14年のウクライナ危機が、ウクライナを団結させた。

 バイデン政権は、米中対立を念頭に「民主主義と専制主義の闘い」を打ちだした。中国は以前は国際秩序の中で地位を築く姿勢を見せたが、今は欧米への対抗でロシアとの共闘を重視し、声高に自国の利益を主張する「戦狼(せんろう)外交」が目立つ。各国の協力で「強くなったロシア」を国際的なルールに引き戻せるかは、中ロ両国と領土問題を抱える日本にとっても重要な問題だ。(朝日新聞記者・喜田尚=キエフ)

AERA 2022年2月14日号より抜粋

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