ロシアによるウクライナ侵攻の可能性が高まっている。情勢が緊迫化した背景、ロシアがウクライナにこだわる理由とはいかなるものなのか。AERA 2022年2月14日号で、現地で取材する朝日新聞記者が解説する。
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2014年2月、ウクライナでは当時の親ロシア政権に抗議する市民を治安部隊が銃撃し、100人超の死者が出た。責任を問われるのを恐れた大統領が逃亡し、親欧米路線の政権が誕生。これに反発したロシアが強行したのがクリミア半島併合だ。
■止まった和平プロセス
直後にプーチン政権の支援を受ける親ロシア派勢力がウクライナ東部の一部を占拠し、ウクライナ軍と武力衝突が始まった。翌年2月、停戦合意が結ばれたが、ロシアの強い意向が働き、ウクライナが親ロシア派支配地域に自治権を与えるとの項目が盛り込まれた。その後ロシアはクリミア返還の協議には一切応じず、東部紛争では自治権付与に必要な法整備が進まないとウクライナを批判し続け、和平プロセスは止まったままだ。
ロシアが今回、米国、NATOに突き付けた主な要求は三つある。(1)NATO拡大を停止し、ウクライナの加盟を認めない(2)NATOの東方拡大が決まった1997年以降、東欧に配備した部隊、兵器を撤去(3)ミサイル配備や軍事演習の制限──など。14年にウクライナ危機が起きた原因は、ウクライナへの欧米の支援と90年代からロシアの反対を押して進められたNATO拡大にある──というのがロシアが世界に示そうとしている「ナラティブ」(語り口)だ。
米国、NATOは特にNATO拡大停止を拒否する。NATO加盟の問題は同盟の原則と加盟希望国の主権に関わる。米国はトランプ政権時代の自国優先主義や、アフガニスタンからの米軍撤退で招いた同盟の揺らぎを繰り返すわけにはいかない。
これにプーチン氏は「ロシアの懸念が考慮されていない」と反発する。ウクライナに侵攻する意図は否定するが、今回は軍を撤収させる気配を全く見せない。逆に1月半ばからウクライナと約1100キロの国境で接するベラルーシにも送り込み、事態をさらに緊迫させた。
■8年前と同じではない
交渉が長引く可能性はあるが、ロシアがどこで折り合いをつけるつもりかが分からない。プーチン氏は侵攻の意図を否定するものの、振り上げた手を下ろせなくなれば、結局は何かの理由をつけて攻撃せざるを得なくなる可能性がある。