川田さん夫婦。「亡くなられた利用者の方は、就労に向けて1年以上頑張っておられました。支援に関わっていた私は悲しい気持ちでいっぱいです」(祐一さん)
川田さん夫婦。「亡くなられた利用者の方は、就労に向けて1年以上頑張っておられました。支援に関わっていた私は悲しい気持ちでいっぱいです」(祐一さん)

 ただ、課題はまだ残る。

「復職支援は、今の時代の患者に合う制度設計になっていない。我々のプログラムも普及の壁がある。既存の医療制度の流用で展開していますが、うつの人向けの医療リワークに対するインセンティブは、特にない。意欲のある医師がボランタリーなマインドで行っているのが現状です」(五十嵐氏)

 精神障害者の雇用が義務化されたのは18年だ。ソフトバンクでは、いわゆる法定雇用率を満たす障害者雇用ではなく、働き方の多様さを増やす試みの中で、精神障害者の就労の課題解決に取り組んできた。16年から実施している「ショートタイムワーク」制度だ。

「週に20時間未満なら自分らしく働ける」という人を募り、社内横断的に業務を切り出し、得意なことに取り組んでもらう。この制度での雇用者は、のべ48人。現在の働き手が19人。対象者は、主に精神障害や発達障害を持つ人だ。

 例えば、郵便の仕分けを担っていた女性は、今は別の業務に取り組んでいる。強迫性障害や発達障害があり、これまでは主に作業所などで働いてきた。今ではトラブルが発生した時に率先して行動するようになり、それが自身でも新鮮な驚きだったと話しているという。同社CSR本部多様性推進課課長の梅原みどりさんは言う。

「私たちが大事にしているのは、『一緒に働いている』と感じられるコミュニケーション。社員がその方に必要な配慮事項を認識しながら仕事をお願いする。社員の側にも普通に接すればいいんだという気づきが生まれています」

 場があれば、相互理解が自然と深まる、と教えてくれる事例だ。

 冒頭の川田さん夫婦は、精神や発達の障害がある人には社会で「宿り木」になる居場所が少ないと訴える。今、必要なのは、宿り木を増やすイメージで社会を変えていくこと──。私たちには、そんな意識転換が問われている。(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2022年2月14日号

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