AERA 2022年2月14日号より
AERA 2022年2月14日号より

 火元となったクリニックでは、うつ病などで休職した患者らを対象にした集団治療「リワークプログラム」が手厚く行われていた。「医療リワーク」と呼ばれる取り組みだ。

 日本では、障害者職業センターで行う「職リハリワーク」や、企業内などで行われる「職場リワーク」がバラバラの管轄で行われてきた。医療リワークの取り組みは少なく、西澤院長の死を惜しむ患者の声には、「(同じような)支援が受けられるのか」という不安もあったと、前出の道崎さんは話す。

 西澤院長が加入していた日本うつ病リワーク協会の「リワークプログラム」は、2005年にスタートし、現在は全国約200施設で実施されている。同協会の五十嵐良雄理事長は、「患者の需要を考えれば、実施機関を20倍に広げても足りない」のが現状だという。

 背景にはうつなど気分障害の患者の爆発的な増加がある。厚生労働省の患者調査によると、うつを含む気分障害の推定患者数は1999年の約44万人から10年足らずで2倍以上に増え、08年には100万人を突破した。バブル経済の崩壊後、過重な労働環境をもたらした産業構造の変化がメンタルヘルスの変調に影響したと五十嵐氏は見る。

「精神科医が『もう大丈夫』と職場に戻しても、復職した人たちが再休職して何度も受診してくる。診察室だけでは見えない課題がある。別の医療的な手立ても必要だと思いました」

 2千社以上の調査で、精神疾患を持つ人が復職後に再発を繰り返している実態が明らかになっている。障害者職業総合センターが17年に発表した調査において、1年後の職場定着率は、精神障害者が49.3%。身体障害者(60.8%)や知的障害者(68.0%)よりも大幅に低い。

 集団プログラムを行うのは、患者自身が人間関係の中で起こる心理や行動パターンを理解するためだ。気持ちの整理の仕方など心理的な支援を行う認知行動療法を織り交ぜた。その結果、うつのリワークプログラムを利用して復職した人たちの就労継続率は、復職後3年の時点で7割に上った。

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