点字で受験していた時期に使っていた司法試験の問題集
点字で受験していた時期に使っていた司法試験の問題集

 予備校に通うことは難しかったため、インターネットで教材を買い求め、卒業後もひとり勉強を続けた。実家の仕事を手伝うなどしながら10回以上、司法試験に挑んだが、壁は厚かった。

 障壁となっていたことが主に二つあった。一つは、受験環境の問題だ。

 司法試験の科目は短答式(憲法、民法、刑法)と論文式(公法系、民事系、刑事系、選択科目)からなる。奥山さんが大学を出たころは、視覚障害者は試験を点字で受けていた。試験時間は一般受験者の約1.5倍あるが、書き込みをすることで考えを整理できない視覚障害者は、頭の中で解答を組み立てるのに時間を要する。その結果、試験時間が足りなくなる受験者が続出していたという。奥山さんもそのひとりだった。

 03年、受験条件の改善を求める請願が参議院に出されたことなどから、現在ではパソコンでの答案作成が認められている。個室で受験し、自分が入力した答えは音声ソフトで確認できる。以前に比べれば前進だが、一般の受験者に比べ、心理面や身体面で視覚障害者の負担はなお大きい、と奥山さんは訴える。

「司法試験は4日に分けて行われます。一般受験者の終了時刻は18時でも、解答に時間がかかる視覚障害者は夜22時近くまで及び、その翌日の集合が朝7時半だったこともありました。ストレスは大きかったです」

 もう一つのネックは論文対策。短答式は独学でも対策ができたが、論文を書くのが奥山さんは不得手だった。

「私のころは、盲学校では文章作成の授業が非常に少なかった。自分では論文のつもりでも、人から見れば何を書いているのかよくわからない状態だったと思います」

 司法浪人を続けるうちに、試験を取り巻く環境は変わった。旧司法試験は11年に終了し、06年にスタートした新制度では、受験するには原則として法科大学院を修了しなければならなくなった。受験回数も「5年以内で5回」の制限が設けられた。

 奥山さんは都内にある私大の法科大学院を修了したが、5年以内の合格はかなわず、受験資格を再び得るため、19年に明治大の法科大学院(法務研究科)に再入学する。入試時の成績から特待生扱いとなり、学費は免除された。

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