「僕だけでなく、表やデータも交えた、いろいろなアプローチを盛り込み、複層的な本にしたほうが、シティポップを論じる面白さが伝わると考えたんです」

 執筆と編集で気を配ったのは、シティポップ人気=日本スゴイというような、単純に日本を礼賛する本ではないと伝えることだった。シティポップの熱気から適度に距離を置き、一つの文化史として長く読み継がれるように、資料に基づいた綿密な内容で構成していった。

「執筆しながら気づいたのは、シティポップには日本の戦後史における集団的記憶や社会情勢が分かちがたく絡み合っていることです。そこで描かれる東京は理想上の都市なんだけど、それゆえイマジネーションに満ちている。豊かなキッチュが大量に蓄積されている80年代の文化を国内外の若者が受け入れている土壌と、『あるべき等身大の自分』とは別のペルソナ性みたいなものを否定的に捉えない最近のモードの重なりが、ブームの背景にある気がします。そうした文化が主導してきたからこそ、ここまで広がった。単純にわっしょいわっしょいやっちゃうと、ファンダム主導の面白さがなくなってしまう可能性があると思うんです」

(ライター・角田奈穂子)

AERA 2022年8月8日号