東京・世田谷 イエローページセタガヤ/松陰神社前駅徒歩5分。昼は八百屋で夜は飲み屋。Instagramで知っただけでなく、世田谷通り沿いなので、車やバス、徒歩、自転車で通りがかり、気になったと来てくれる人も多い(撮影/写真家・中村治)

 東京・中目黒の目黒川沿い、今年で築70年になる古民家を借りセレクトショップを営む「Vase」の平井名王企さんは、5年ほど前からネオンサインを利用している。遠くからも柔らかく光って見えるネオンは、空間に自然に溶け込み、あたかもずっと昔からそこにあったかのように感じるという。昨年、店舗を増設した際、天井にも新たに円形のネオンを設置した。お店をオープンした15年前には目黒川沿いにも店は少なかった。古き良き中目黒の雰囲気を残していきたいと、平井さんは言う。

 東急世田谷線松陰神社前駅から程近い「イエローページセタガヤ」の店主・尾辻あやのさんは、20年の秋、40年営業を続けてきたすし屋が閉店し、空き物件となっていたところを居抜きで借りた。ドアや窓枠や柱、カウンター、椅子、照明、ガラスケースなど利用できるものはなるべく残した。おしゃれなカフェ風ではなく、ノスタルジックでポップな店にしたかった。そこにネオンは欠かせなかったという。

■SNSで職人が発信

 かつてビルの屋上に輝いた大規模ネオンはこの10年で一気に減ったが、看板や店内装飾に小規模なネオンを採用する店舗が、近年増え続けている。その理由として、韓国のネオンブームの伝播や、昭和レトロ、平成レトロブームなどが挙げられるが、InstagramなどSNSによって、ネオン職人が発信する仕事を、個人店主が目にする機会を得たことの影響が最も大きいのではないだろうか。小規模なネオンでも手掛けてくれるネオン工房があることを、以前は知る術はなかったが、今は直接ネットを通じて作り手と個人がつながれるようになった。SNSにアップされたネオンの写真が、新たなネオンを生み出すというサイクルが生まれ始めている。

 ネオンは、レトロでノスタルジックな雰囲気を醸し出し、どこか懐かしさを感じる、と皆一様に口にした。お婆ちゃんの家に帰ってきたみたいな感覚、という若い人も多かった。SNSが進化し、リモートが当たり前になっている今、人と人がつながるぬくもりの予感をネオンに感じ取るのだろう。大規模ネオンが消えつつある一方で、小ぶりだがより身近になったネオンが、コロナ禍で疲弊した街の新たな癒やしとなりつつある。(写真家・中村治)

AERA 2022年2月21日号

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