――共演は初めて。どんなところに“すごさ”を感じたのだろう。
池松:伊藤さんの瞬発力は素晴らしかったですね。目の前で起こることへ反応する力と言いますか、リアクション。そこにだいぶ助けられたな、と思います。
伊藤:私から見ると、池松さんはそこにドン!といてくれる感じがして、自由に泳がせてもらいました。役者としてずっとリスペクトしていましたし、「信頼する」ということにあまり時間が掛からなかった気がします。私が演じる葉ちゃんに照生が思いを伝えるシーンが、すごく好きで。一生懸命に伝える感じに、きっと葉ちゃんもグッときたのだろうな、と。私自身、嘘なくその場にいることができました。構えることなくリアクションするだけで何かが成立するのだとしたら、それが一番いいんじゃないかな、と思います。
――ハスキーボイスの伊藤と、落ち着いた声音が印象的な池松。二人の声を追っているうちに、物語が進んでいく。
池松:伊藤さんの声はすごく特徴的ですよね。映画の顔になる声として、落ち着きも、儚さも、ポップさも、懐かしさもある。素晴らしい“武器”と言ってしまうと、少し違うのかもしれないけれど、天性のものだと思います。
伊藤:池松さんは声もそうですが、話し方にも特徴がありますよね。(人を一番リラックスさせる脳波と言われる)シータ波が出ているというか(笑)。物語の中で「夢で待ち合わせね」と照生が言うシーンがあるのですが、包まれている感じがして落ち着くんです。
池松:実は以前、取材中、相手の記者さんに寝られたことがあるんですよ(笑)。
伊藤:きっと、心地良かったのだと思う(笑)。でも、二人がケンカして、照生が怒るシーンでは、「一番優しくて、一番怖い声だ」とも感じました。照生は怒りをぶつけるタイプではないけれど、声が震え、怒りが漏れてしまうところはある。「なんだか怒られてしまったなー」という気持ちにもなりました。私はタクシードライバーとして、いつもハンドルを握っていたから、話をしている人の顔を見ることができない。声から伝わるもので反応するほかなかった。そうした意味でも、この作品において「声」は大きな役割を果たしていたのではないかと思います。
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2022年2月21日号