池松:いえいえ。でも、そうか、幼い時に「ライオン・キング」でシンバで踊っていたんだった。今回は短期決戦だったので、準備する時間もなく、何年もやってきたプロのように踊れるわけがない。そうしたことには抵抗感があるので、「どうしようかな、伊藤さん代わってくれないかな」と考えていました(笑)。

伊藤:私は、タクシードライバー役を演じているうちに、「なんだかいいな」と思いました。物語の中では、いろいろなお客さんと会話を交わしていくのですが、その時間が心地良かった。たとえば、後部座席をサイドミラーで見たい時と、バックミラーで見たい時は何が違うんだろう、何が変わるんだろう、ということも考えていました。

――池松演じる照生の誕生日に起こった出来事を見せながら、6年を辿る。どのように気持ちをつくり、現場に臨んだのか。

池松:二人の6年間を約2週間で撮影しているわけですから、大変な作業ではあるんですが、各々のパーソナルな人生においての過去を振り返る作業が必要だったと思います。トム・ウェイツの「Time」という歌に、「思い出せないことと、忘れないことと」という歌詞があるのですが、このことがまさに人生というものをかたどっているように思います。監督や僕たち俳優陣、スタッフそれぞれのこれまでの経験や記憶を持ち寄ることが必要だったんじゃないかと思います。生きていれば、いい時もあれば悪い時もあって、いろいろなことを経験してきたわけですから、あとはもう、そうした感覚をすり合わせていく。つくり込んだものをそのまま演じることのつまらなさも、その場に預けることの無力さも知っているので、僕の場合は、6年をある程度計算しながら、あとは伊藤さんと現場で崩していく、というやり方をしていました。

■天性の声が活きる

伊藤:6年という時間が経つということも、物語が動いているということも知っているから、そういう流れや感覚を知っていれば、成立するかなと。バラバラで撮ったとしても、一つ一つのシーンを嘘なく生きていれば、意外とつながるのではないか、とはなんとなく思っていました。

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