松居大悟監督の映画「ちょっと思い出しただけ」が2月11日から公開中だ。作品は6年間の恋愛模様を描いたラブストーリー。初共演した池松壮亮さんと伊藤沙莉さんが「いま必要な映画」について語り合った。AERA 2022年2月21日号から。
* * *
――コロナ禍になり、記憶に刻まれた“あの人”を思い出す。そんな経験をしている人はきっと少なくない。映画「ちょっと思い出しただけ」は、ある一日を遡り、別れてしまった二人の恋愛を描き出す。コロナ禍という現代性を反映させた作品だ。
池松:現代の日本映画において物語性と現代性がつながっていない作品があまりにも多く、不満に感じていました。そのつながりを日々考えているのですが、いまは「コロナ」という世界共通言語ができた。こうした“共通の痛み”を負ったということは、大きく長い目で見れば、人類にとっていいことのはずなんです。人の“痛み”に目を向けられるようになったわけですから。そのなかで何をつくるのか。過去をどのように振り返りながら、もうすぐ夜明けがやってくるかもしれない、という可能性を映画のなかで提示していくか。そうしたバランスのようなものを演じる上でも意識していました。
伊藤:人生で何かを得たり失ったりすることを、コロナ禍でより強く感じるようになった気がします。正直、コロナは憎いですし、いなくなれ!と思いますが、気づきを得ることができた時間でもありました。一度立ち止まって、人生をちょっと思い出すことのできる、優しい作品なんじゃないかな、と思います。過保護に「大丈夫だよ」と言っているわけではなく、さりげないから一番優しい。他人の人生を見ることで、自分のことも振り返ることができる。いま必要な作品だと思いますし、そうした作品の現場にいられたことは贅沢(ぜいたく)だな、と思いました。
■過去を振り返る作業
――池松は、元ダンサーである舞台照明スタッフを、伊藤はタクシードライバーを演じた。
池松:元ダンサーという役柄を知った時は、嫌でしたよ。できれば、踊りたくなかったですし(笑)。
伊藤:私は「むちゃくちゃうまい!」と思いました。劇団四季での経験があるからかな?と思っていたのですが。